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2003/03/28
グローバル・オープン・ソサエティ―市場原理主義を超えて
本書は、20世紀最大の投資家にして、慈善家でもあるジョージ・ソロスの最新作です。3年前の著作『グローバル資本主義の危機』は大きな話題となりました。
全書でも世界を覆い尽くすグローバリゼーションと市場原理主義に対する批判と提言を繰りひろげていましたが、今回もその舌鋒は健在です。今回はさらに一歩踏み込んで、具体的改革案を提唱します。
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■■ ビジネス選書&サマリー
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=今週の選書=
■グローバル・オープン・ソサエティ―市場原理主義を超えて
■ジョージ ソロス (著)榊原 英資 (訳) 藤井 清美 (翻訳)
■ダイヤモンド社
▼本書の詳細、お買い求めは、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478200807/tachiyomi-22
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■■ 選書サマリー
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【1】
グローバリゼーションとは「グローバル金融市場の発達」と「多国
籍企業の成長」そして、その両方が各国経済にどんどん大きな力を
及ぼすことだ。
これが世界中でいろいろな問題を巻き起こしている。例えば低開発
国の人々を中心に多くの人が、苦しめられている。
また私的財と公共財の配分比率がおかしくなっている。例えば、見
さかいなく利益が追求された結果、環境が破壊されたりしている。
さらに、グローバル金融市場は危機に陥りやすく、これが途上国の
経済をおおきく痛めつけている。この3つの要因があいまって不公
平な土俵を作っている。
【2】
しかし、グローバリゼーションには、よい面もたくさんある。まず
国家が経済をコントロールするよりも、大きな富を生み出せる。国
家より民間のほうが富を生み出すのはうまいからだ。
また国家がやるより、個人が豊かになれる。国家は権力を振りかざ
し、なかなか個人に富を配分したり、自由を与えたりしないからだ。
さらにグローバル規模で自由に競争するようになったことで、新し
いものを生み出す才能や、企業家的な才能が発揮され、技術の進歩
が加速している。
このように良い面もあるのだから、グローバリゼーションは強く支
持されるべきだ。ただ問題も多いので、改革は必要だ。
【3】
金融市場は、放っておけば均衡するという意見もある。規制するよ
りも市場原理に任せたほうがうまくいくという。しかし市場メカニ
ズムを過度に信頼することは危険だ。
まず、市場には社会的な正義はない。公共財を提供できるのは市場
でなく政治だ。
ところが市場はグローバルになったのに、政治は依然としてグロー
バルでない。
政治・社会に関する国際的仕組みが全く強化されず、社会の問題に
ほとんど力が注がれていないまま、市場だけがグローバル化して資
本が自由に世界を動き回っている。これが問題を引き起こしている。
【4】
こうしたグローバリゼーションによる不平等の拡大に対し、多くの
人が怒り、抗議している。活動家は「国際貿易やグローバル金融市
場を維持する国際機関など破壊してしまえ」と叫ぶ。
だが必要なのは役に立たないから壊してしまえということではない。
改革することだ。
これまで、このグローバリゼーションに関する問題点を正すことに
資源が使われてこなかった。せめてここで生み出された富は、それ
がもたらす弊害の埋め合わせに使うべきだ。
具体的にグローバリゼーションの改革案をあげると次の4つだ。
・金融市場の不安定さを抑える
・先進国に有利な既存の国際金融貿易機関の姿勢を改める
・貧困の緩和などに取り組む機関を創設しWTOの補完をさせる
・政府の腐敗、無能さに苦しむ国の国民の生活の質を高める
【5】
富めるものと、貧しいものの格差は拡大する一方だ。世界の人口の
うち、最も豊かな1%が手にする所得は、最も貧しい57%の人々の
所得と同じだ。
10億人以上の人が1日1ドル未満で生活し、10億人弱の人が清潔な
水を飲めずにいる。8億人以上が栄養不足で、毎年1000万以上の人
がごく基本的な医療が受けられないために死亡している。
これらのすべてがグローバリゼーションによるものではない。だが
グローバリゼーションはこれらの問題を正す力を持ちながら、それ
を発揮することを怠けてきた。
もしこれを正すことができれば、どんな国家よりも自由を保障して
くれるものになるはずだ。これはグローバル・オープン・ソサイエ
ティと呼ぶべきものだ。
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■■選書コメント
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本書は、20世紀最大の投資家にして、慈善家でもあるジョージ・ソ
ロスの最新作です。3年前の著作『グローバル資本主義の危機』は
大きな話題となりました。
全書でも世界を覆い尽くすグローバリゼーションと市場原理主義に
対する批判と提言を繰りひろげていましたが、今回もその舌鋒は健
在です。今回はさらに一歩踏み込んで、具体的改革案を提唱します。
論旨の軸は、WTO、世銀、IMFといった国際機関を改革したう
えで有効活用し、彼の目指す「オープン・ソサエティ」を実現、こ
れをグローバルに展開させるというものです。
オープン・ソサエティとは、国家に縛られない自由で自律的な結び
つきをもったコミュニティのことです。9.11以降、強まるアメ
リカの単独主義に対する激しい批判も交え、資本主義のあるべき姿
を語ります。百戦錬磨の実務家の言葉だけに、迫力に満ちています。
市場原理主義の綻びが現実的に感じられる今、そして米国の蛮勇が
暴発して、イラク攻撃を開始した今、本書の内容に深い共感を覚え
る読者も少なくないと思います。
内容は平易ではありませんが、翻訳が非常に上手く、大変読みやい
仕上りです。世界が混乱している今、そのあるべき姿を自分の頭で
も考えてみたいと思う方に、おすすめします。
本書では、米国のように軍事面でも経済面でも、他を圧倒する力を
持つ、もはや抑止力のない国は、他国のように自国の利益だけを主
張するべきでないと、米国の覇権主義を非難しています。
ビジネスの現場でもうそうですね。権限、権力のある人が、自分の
利益を最優先して行動したら単なる独裁者になります。権限、権力
を身にまとうに応じて、それを認識する責任と自ら働かさねばなら
ない抑止力があることは、知っておくべきでしょう。
▼関連図書
『グローバル資本主義の危機―「開かれた社会」を求めて』
(ジョージ ソロス/日本経済新聞社)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532147190/tachiyomi-22
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