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2004/01/30
戦略「脳」を鍛える
NASAは国の財政赤字を背景に、低コストで火星に着陸する方法
を編み出した。織田信長は毛利水軍が火の矢を投じてくると知るや、
「ならば燃えないようにすればよい」と鉄張りの船を造った。
競争に勝つためには斬新でユニークな戦略が必要だ。ましてや、現
代の企業間競争は複雑をきわめている。業種を問わぬ競合があちこ
ちで起こり、まさに異種格闘技状態だ。では勝つ戦略とは何だろう。
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■■ ビジネス選書&サマリー
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 20170部>━
=今週の選書=
■■戦略「脳」を鍛える
■■御立 尚資 (著)
■■東洋経済新報社
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■■ 選書サマリー
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ボストン・コンサルティング・グループがもつノウハウの中核部分
を初公開します。
【1】
NASAは国の財政赤字を背景に、低コストで火星に着陸する方法
を編み出した。織田信長は毛利水軍が火の矢を投じてくると知るや、
「ならば燃えないようにすればよい」と鉄張りの船を造った。
競争に勝つためには斬新でユニークな戦略が必要だ。ましてや、現
代の企業間競争は複雑をきわめている。業種を問わぬ競合があちこ
ちで起こり、まさに異種格闘技状態だ。では勝つ戦略とは何だろう。
戦略論の知識を持っているだけでは勝てない。戦略の定石、プラス
アルファの能力が必要だ。戦略脳を鍛えて、その能力を身につけた
者だけが自らを差別化し、競合優位に立つことができる。
【2】
戦略の定石に加えて必要な能力を「インサイト」と呼ぶ。これは戦
略構築に必要な頭の使い方、ならびにその結果得られる、ユニーク
な視座のことだ。公式で表せば「ユニークな戦略=定石+インサイ
ト」となる。
インサイトを身につけるために絶対不可欠の要素が「スピード」と
「レンズ」の2つだ。これを公式にすると「インサイト=スピード
+レンズ」となる。
スピードとは、戦略の定石を加工応用して仮説を立て、これを検証
するまでの速度を指す。思考の作業をスピーディにおこなえば、相
手がまだ考えつかない戦略をいちはやく展開できる。
また、レンズとはユニークな仮説を作り出すモノの見方、思考ツー
ルのことだ。こうしたメカニズムを働かせるには、左脳と右脳の両
方を使いこなす必要がある。
【3】
左脳は言語や計算を、右脳はイメージを司る場所だ。たとえばプロ
棋士が短時間に数十手先まで読めるのは、左右の脳を並列的に動か
しているからだ。
彼らは頭のなかに蓄積された定石を土台として、盤面をビジュアル
イメージでとらえる。そこから次の手を仮説として右脳で導き出し、
左脳で論理的に検証する。一連の思考のスピードは並外れて速い。
この技こそ、インサイトそのものだ。論理的思考だけで一手ずつト
ライ&エラーを繰り返していたのでは、膨大な時間がかってしまう。
だが、左右の脳のコラボレーションをおこなえば、スピーディな問
題解決が可能だ。
【4】
戦略思考にあたって左右の脳をどのように使えばよいのだろうか。
まず、頭に入れてほしいのが、「スピード=(パターン認識+グラフ
発想)×シャドウボクシング」という公式だ。
「パターン認識」とは、将棋でいえば、過去の定石・定跡を覚えて
使いこなすことだ。「グラフ発想」とは、盤面を右脳でビジュアル
的にとらえ、指し手のアイデアを考え出す手法だ。
また、「シャドウボクシング」は、考え出した指し手を論理的にチ
ェックし、納得できる答えを導き出すまで、右脳と左脳で仮説と検
証を繰り返すことだ。これらの作業をいかに速く行うかが、勝敗の
カギとなる。
【5】
「戦略脳」トレーニングの要旨を整理すると、次のようになる。ま
ず、前述のパターン認識というテクニックを用いる。
「この場合はAパターンが使えるのでは」「BとCを組み合わせれ
ば読み解けるのでは」など、パターンの記憶の引き出し(コンセプ
トワード)を使い、左脳で言語を処理する。
次に目の前の事象をグラフ化して、右脳でビジュアル的に捉える。
複雑な事象を単純に把握すれば、思考スピードをぐんと上げること
ができるだろう。操作により多様なシミュレーションも可能だ。
続いてこれをシャドウボクシングで検証する。右脳と左脳を交互に
用い、戦略を進化させる訓練をする。こうして思考はもっと速度ア
ップする。さらに多様なモノの見方を可能にする「レンズ」を使い
こなせば、インサイト、「戦略脳」を身につけたことになる。
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■■ 選書コメント
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本書は、タイトル通り、戦略思考をするための本です。そのために
必要な思考の枠組みを学び、さらに、そこから優れた答えを導き出
すカラクリと、その開発方法について学びます。
実は、私、ほんとうはこの手の本があまり好きではありません。書
店に並んでいるこの手の本の多くが、ごく当たり前のことを、わざ
わざ難しく書いただけというものだからです。
事例も、外国の企業や国内の大企業やベンチャーの例ばかりです。
そのため、本来は理解を助けるはずの事例が、さらに理解を難しく
させています。
しかし、本書はそのような類書とは一線を画しています。本来難し
いことを、簡単、シンプルに書いています。事例も、街のパン屋な
ど身近な例をあげています。非常に面白く、楽しく読めました。
本書のような戦略思考本で語られる思考の枠組みは、ハサミや定規
などの文房具と同じように"道具"です。職場で難しいことを考え
たり、相手に伝えようとするときに使う道具なのです。
道具ですから、実際に使わなければ意味がありませんし、使えば使
うほどに、使い方が上達していきます。良くない読み方は、読んで
頭が良くなった気分に浸り、それで満足してしまうこと、もっと良
くないのは、読まずに本棚に飾っておくだけの人です。
職場で使う機会がないなら、頭の体操に使えばいいと思います。例
えば、満員電車に揺られている間、ボーとする代わりに、「この電
車の混雑を緩和するには?」と考えてみると面白いし、道具を使い
こなす練習になると思います。
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