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2004/04/09
ビーンズ!
エル・プレッソ(仮名)は、アメリカのコーヒーの聖地シアトルで、
あえて小さいままでいることを決めながら、懸命に努力して繁栄を
手にした実在のコーヒー店だ。
主人公のジャックとダイアンは、航空会社の客室乗務員から転身し
一台のカート式のコーヒー店を始めた。スターバックスやタリーズ
という大型チェーン発祥の地シアトルで20年以上にわたり自分た
ちの考え方や信念を忠実に守り、繁栄を築いてきた。
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■■ ビジネス選書&サマリー
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 21170部>━
=今週の選書=
■■ビーンズ!
■■レスリー・A・ヤークスほか(著), 有賀 裕子 (訳)
■■ランダムハウス講談社
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■■ 選書サマリー
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今週は、シアトルに実在する一軒のカフェ「エル・プレッソ」(仮
名)を舞台にした心温まるビジネス・ノンフィクションです。
【1】
エル・プレッソ(仮名)は、アメリカのコーヒーの聖地シアトルで、
あえて小さいままでいることを決めながら、懸命に努力して繁栄を
手にした実在のコーヒー店だ。
主人公のジャックとダイアンは、航空会社の客室乗務員から転身し
一台のカート式のコーヒー店を始めた。スターバックスやタリーズ
という大型チェーン発祥の地シアトルで20年以上にわたり自分た
ちの考え方や信念を忠実に守り、繁栄を築いてきた。
2人の店は、やがてシアトルで最高のコーヒーを飲める場所との評
判を勝ち取った。エル・プレッソのコーヒーを求めて、人々はたと
え雨の日でも行列するのだ。
世の中は変わりゆくビジネスに何とか対応しようと懸命に努力して
いる。しかしエル・プレッソが教えてくれることは、昔ながらのや
り方に立ち返れということだ。
目にもとまらぬ速さで変化する世の中を生き抜くために、人生やビ
ジネスに自分らしく情熱的に向き合うこと、同じような志を持つ人
を集めることの大切さを、エル・プレッソは教えてくれる。
【2】
最初の3年間、ジャックとダイアンは究極のコーヒーでお客様をも
てなそうと情熱を注いだ。情熱のこもったコーヒーは、すぐに極上
の一杯になった。
だが2人はすぐに気付いた。たとえ2人がどれほどの情熱を傾けて
もお客様が自分たちと同じように情熱をコーヒーに注いでくれなけ
れば、店を長く続けることはできないのだ。
そこで2人は、自分たちの力でお客様の心にコーヒーに対する情熱
を芽生えさせようとした。くる日もくる日もコーヒーのすばらしさ
をお客様と店の仲間にも語り続けた。
また、開店間もないころから豆の量は普通の2倍に決めた。こうす
れば他店の2倍おいしいコーヒーになると思ったからだ。こうした
狙いは見事に当り、エル・プレッソは評判のコーヒー店になった。
【3】
もちろんエル・プレッソも、いつも何もかも完璧というわけではな
かった。資金繰りや人材の面でいくつかの問題を抱えこともあった。
それがジャックの情熱に水を差すこともあった。
たとえば多店舗展開を試みたことがある。だが彼らは店で汗を流す
のではなく、人を雇って鍛え、出店地の下見をし、金策に走り回る
日々が耐えられなかった。結局、他店はすべて人に譲ってしまった。
また店のそばにオフィスを構えていたシアトル有数のドットコム企
業が、何百人という社員ごと遠く離れた場所に移転してしまったと
きには、売上げはひどく落ち込んだ。
そんな時は、自分も、店のみんなも将来に不安を抱いた。スタッフ
が不安を抱えれば、当然お客様にも伝わる。売上げはますます下が
った。しかしそうした障害も何とか乗り越えてきた。
【4】
エル・プレッソの繁栄の秘密は、実はとてもシンプルなことだ。そ
れは「4つのP」と志だ。「4つのP」とは、次の4つだ。
・情熱(Passion)
・人(People)
・商売を超えた温もり(Personal)
・商品(Product)
仕事の充実度や成果の大きさは、仕事にこの「4つのP」をこめる
ことができるかどうかにかかっている。つまり、仕事に情熱を持ち、
とびきりの人材を集め、素晴らしいお客さまを集めお客さまひとり
ひとりに温もりを伝えること、そして上質の商品を届けることだ。
この「4つのP」を大切にすれば、ビジネスは必ずうまくいく。ジ
ャックとダイアン、そしてエル・プレッソのスタッフも忠実に、実
直にこれを実行してきた。だからこそ現在の繁栄があるのだ。
単純なことだが、この4つのPは、あなたがオーナー経営者であろ
うと、新米マネージャーであろうと、よりよい仕事の進め方を模索
する大企業の社員であろうと、必ず当てはまる真実なのだ。
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■■ 選書コメント
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本書には、かつてアメリカでも終身雇用が一般的だったことをうか
がわせる記述があります。意外に知られていませんが、これは事実
です。
70年代前半までは、アメリカでも終身雇用が一般的でした。従業員
は、少し前の日本と同じように、一生同じ会社に勤め、退職後は年
金で暮らすのが当り前でした。
その後、アメリカの企業は終身雇用を維持できなくなりました。そ
して今、我々がアメリカ流と呼ぶ成果主義の人事制度が、一般的に
なったのです。
そのしっぺ返しをアメリカの企業は、今、手痛い形で受けています。
それは従業員からでなく顧客からでした。従業員の忠誠心の欠落が
仕事の質の低下を招き、結果的に顧客の会社離れを招いたのです。
本書のような、一見極めて当たり前のことをテーマにした本が、ア
メリカで飛ぶように売れる背景には、このような実態があるのです。
日本も、グローバルスタンダードの名のもと、リストラ、ベアゼロ、
成果主義の導入も進み、終身雇用は崩壊しました。退職金や年金に
よる退職後の保障も危うくなってきています。
これが従業員の不安に結びついています。会社が絶対の安心感を与
えてくれなくなった今、社員は会社との一体感、会社に対する忠誠
心を失いつつあります。
すでに忠誠心の希薄化は、従業員による顧客情報の流出、内部告発
による不祥事の発覚などという形で顕在化してきています。これが、
日本の企業でも様々な形で問題を引き起こすようになるでしょう。
経営者は、従業員を甘く見ていると、とんでもない目に遭うと思い
ます。目先の人件費惜しさに、給与カットやクビ切りに飛びつくと、
あとで取返しの付かない代償を払わされるでしょう。
そのしっぺ返しは、アメリカのように、顧客の心が会社から去って
いくという、最悪の形で現われるかも知れないのです。
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