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2004/04/16
エコノミストは信用できるか

エコノミストは信用できるか

経済が低迷すればするほど、拡大を続けた市場、それがエコノミス
ト、あるいは経済評論家と呼ばれる人たちの市場だ。
彼ら自身、「この10年は日本経済にとっては不幸な10年だが、経
済学にとっては豊穣な10年の開始となる可能性がある」などと語っ
ているほどだ。


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■■       ビジネス選書&サマリー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 21670部>━
=今週の選書=
■■エコノミストは信用できるか
■■東谷 暁 (著)
■■文藝春秋
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■■  選書サマリー

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「失われた10年」一番儲けたのはエコノミストだったりして...彼ら
の発言を追い、多角的に検討します。

【1】

経済が低迷すればするほど、拡大を続けた市場、それがエコノミス
ト、あるいは経済評論家と呼ばれる人たちの市場だ。

彼ら自身、「この10年は日本経済にとっては不幸な10年だが、経
済学にとっては豊穣な10年の開始となる可能性がある」などと語っ
ているほどだ。

財政出動、財政構造改革、不良債権処理、金融緩和について、倦む
ことなく賛否を論じてきたエコノミストたち。かくして、さまざま
な説を述べれば述べるほど、それがあたらしい論争を生む「声の市
場」がつくりだされてきた。

その結果、日本経済は豊かになっただろうか。少なくともいまのと
ころ、本格的な回復には程遠い。エコノミスト自身が豊かになった
だけではないだろうか。

【2】

マスコミとエコノミストがもっともらしい解釈をこじつけて「声の
市場」を作り出している。アメリカの法律家にして評論家、リチャ
ード・ポズナーが分析するとおり、公衆インテリ(エコノミスト)
は、マスコミと共生的な関係を維持しているのだ。

マスコミが介在することにより、彼らの発言や提示するデータは、
より大衆向けで、より受け入れられやすいものと化してしまう。し
かも共生の関係においては「品質管理が存在せず」「言説がきわめ
て極端なものに傾きがち」だ。

さらに、その論調はしばしばワンパターンに陥る。これには、大手
新聞社の論調が少なからず影響しているようだ。たとえば80年代末、
「日本的経営」を率先して褒め称えたのはある大手新聞社だが、同
社はわずか4年後、過剰ともいえる否定論に転じた。

その膨大な記事数を見ると、意図的に時代のテーマを煽り、解釈を
流布してきたのでないかと疑いたくなってくる。経済評論家、学者
たちが、こうした論調に歩調を合わせてきたのはいうまでもない。

【3】

エコノミストたちに大きな影響を与えているのは新聞社だけではな
い。彼らはしばしば政府の政策を激しく批判するが、その中身をよ
く吟味すると、政府の方針にはじつに従順であることに気づく。

彼らは財政出動、IT革命など、新しい施策が出されるたびに、先
を争ってその宣伝に努め、結果を先取りするような発言をしてきた
のだ。たとえば「規制緩和」が政策に盛り込まれると見るや「世界
中の製品が買えるようになる」などと煽るといった具合だ。

エコノミストたちはアメリカの政策やアカデミズムの動向にも敏感
だ。アメリカのインフレ・ターゲット(お金の供給量を増やし、物
価を上昇させること)論の先陣を切ったのは、人気経済学者ポール・
クルーグマンだが、人気のある彼の主張からこそ、エコノミストた
ちはこぞって関心を示したのだ。

【4】

また「エコノミストの市場」は奇妙に自己増殖する循環構造を持っ
ている。99年まで、彼らはITなどには何の関心を持っていなかっ
た。

ところが、アメリカがITブームを経済戦略として位置づけ、次い
で小渕政権、森政権がITサミットを開催すると、大手新聞社によ
るIT革命の一大キャンペーンが始まった。

そこでエコノミストは先を争って「IT革命はすばらしい」と論じ
はじめる。経済学者たちも「日本の経済低迷はIT革命で脱出でき
る」と答申。それが政策やマスコミによってさらに増幅され、新た
な刺激が生み出されていったわけだ。

このように、エコノミストたちの主張は一貫性を欠いていることが
多々ある。だが「主張の一貫性」は、エコノミストを評価するうえ
で大切な判断基準だ。

主張が一貫していれば、ある局面において正しい判断を下した場合、
類似した局面においても正しい論説を展開する可能性が高いからだ。

つまり受け手である我々は、常に「エコノミストの市場」によるバ
イアスを考慮しながら、さまざまな局面における彼らの「主張の一
貫性」を見ていく必要があるのだ。

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■■  選書コメント  
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今週の選書は、日本で活躍するエコノミストの格付を行うものです。
彼らの過去の発言や著作を、丁寧に検証、主張の一貫性などから格
付けていきます。

これまでもエコノミストの格付はありました。しかし従来の格付は、
どちらかと言えば人気投票でした。本書のように発言の内容に着目
したものは、私の知る限りほどんど見かけませんでした。

本書の格付けで最重要視されるポイントは、一貫性です。著者が一
貫性にこだわる理由は、多くのエコノミスト達が、立場や功名心か
ら自説を平気でコロコロ変えているからだそうです。

一貫性を調べれば、エコノミストの自説に対する誠実さを知ること
ができます。まず自説に対する誠実さを知り、その上でその人の過
去の発言の確度を知ることで、本当の評価ができると言うわけです。

それにしても本書には、実にたくさんのエコノミストが実名で俎上
に上げられます。そして次々と、バッサバッサと斬られていきます。
ここまでやって大丈夫なのかと、読んでいて心配になるくらいです。

ただし評価は、いわゆる批判本にありがちな、根拠のない誹謗中傷
ではありません。膨大なデータと資料に基づきます。だからこそ、
平気で斬れるのでしょう。

事実に基づけば、年齢や肩書きも関係ありません。これは、我々コ
ンサルタントの世界でも同じです。若いコンサルタントが、自分の
親ほど年上の経営者に提案ができるのは事実を巧みに使うからです。

まず、企業で起きている問題について、客観的な事実を淡々と伝え
ていきます。事実には、年齢も経験も関係ありません。だから相手
は耳を傾けざるを得なくなります。

優れた経営者なら、事実を目の当たりにすれば、こちらの言いたい
ことには自分で気づいてくれます。自分が気付いたことなら、モチ
ベーションがあがりますし、従業員も従いやすくなります。うまい
コンサルタントはこうして事実を巧みに使い、自分の提案を受け入
れさせていくのです。

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主宰者

藤井孝一
藤井孝一
経営コンサルタント
週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)発起人・元代表
(株)アンテレクト取締役会長

慶応義塾大学文学部を卒業後、大手金融会社でマーケティングを担当。米国駐在を経て、中小企業と起業家への経営コンサルティング開始する。2002年6月「週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)」を設立。この新しい起業スタイルを全国のビジネスパーソンに普及させるべく奔走中。

株式会社アンテレクト

東京事務所:
〒101-0052
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Tel.(03)6273-7950
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