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2005/07/22
東欧チャンス
日本経済にとって、中国が重要なのは明らかだ。日本のいいお客さ
んになってくれるからだ。中国経済が栄えれば栄えるほど、日本か
ら買わざるをえない機械や部品が増える。中国の繁栄は日本の脅威
どころか日本の発展につながるのだ。
このような中国お客様論からさらに一歩踏み込んで、中国を日本国
内の市場と同じ距離で見ていくべきだ。GNPやGDPも自国経済
だけでなく「中国」まで含めてボーダレスに捉えるのだ。
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■■ ビジネス選書&サマリー
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■東欧チャンス
■大前研一
■小学館
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■■選書サマリー
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大前研一氏による「中・東欧」の活用法です。
【1】
日本経済にとって、中国が重要なのは明らかだ。日本のいいお客さ
んになってくれるからだ。中国経済が栄えれば栄えるほど、日本か
ら買わざるをえない機械や部品が増える。中国の繁栄は日本の脅威
どころか日本の発展につながるのだ。
このような中国お客様論からさらに一歩踏み込んで、中国を日本国
内の市場と同じ距離で見ていくべきだ。GNPやGDPも自国経済
だけでなく「中国」まで含めてボーダレスに捉えるのだ。
企業でいえば「内国経済1」は本州、「内国経済2」は中国と九州
といった事業部制を敷く発想が大切だ。そうすれば、日本の懸念材
料である少子高齢化や低成長も、恐れる必要がなくなる。
若くて高度成長期にある中国とミックスして考え、マーケットとし
ても生産基地としても中国をうまく取り入れることができる企業こ
そが、これから力を伸ばしていく。
こうした認識に立ったうえで、あえて私は中国一辺倒から脱し、
「中・東欧」チャンスを生かすことを提言している。
【2】
04年5月、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベ
ニア、エストニア、リトアニア、ラトビア、マルタ、キプロスの10
か国がEUに加盟し、EUは25か国体制となった。
EUが東方に拡大し、25カ国体制になったことの意味は大きい。ま
ず、EU全体の人口は約7000万人増えて4億5000万人となり、日本
とアメリカの人口を足した規模を超えた。
GDPも、EU加盟国合計で12.5兆ドルと、アメリカの11.8兆ドル
をしのぐ規模になった。今後新規加盟国が伸びてくることで、ます
ます競争力が強くなっていくことは間違いない。
欧州委員会では、今回のEU拡大による経済効果は、成長率で1.3
?2.1%と試算している。さらに発展途上の国々を取りこむことで、
これからもどんどん競争力を強めることが可能だ。
さらに、新規加盟国はユーロの導入を希望している。これはドル対
ユーロという国際基軸通貨のパワーバランスを考えると非常に重要
だ。
【3】
ここでは、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)およ
び中央4カ国(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)、
さらにスロベキアを総称して「中・東欧諸国」と呼ぶ。
「中・東欧諸国」には、中国と比べて競争力の高い部分がいくつも
ある。たとえばEU域間の関税が撤廃されている。だから、域内で
生産すれば、域外から完成品を持ち込んだ場合課せられる14%の輸
入関税が避けられるのだ。
また既存のEU加盟国との経済格差があるため、賃金コストがEU
内でも割安だ。教育レベルの高い労働力が揃っており、ホワイトカ
ラーの賃金で比較すると、中国よりも安いくらいだ。
中国では、都市戸籍をもつ大卒エリートの賃金が、10年間で10倍、
日本円で月5?10万円ぐらいに急上昇した。これに対し中・東欧諸
国では、月3?6万円で大卒ホワイトカラーを雇うことができる。
【4】
こうした中・東欧の魅力に注目して、すでに世界中から投資が集ま
っている。日系企業を含めた多数の世界企業が進出し、EU市場向
け生産拠点として、欧州企業のバックオフィスの拠点として、さま
ざまな活用の試みがはじまっているのだ。
たとえば、中国から部品を調達して中・東欧で組み立て、中・東欧
よりもさらに労働力の安いウクライナなどを活用して競争力を高め
るといったぐあいに、国境を越えたダイナミックな動きも見られる。
こうした動きに対して、フランス、スペイン、ポルトガルなどの旧
EU諸国は、職を失いかねないという危機感をつのらせている。E
Uも実は一枚岩ではないのだ。
このように、中国と比較しながら中・東欧諸国を見ると、新たなビ
ジネスチャンスや世界戦略が見えてくる。中・東欧の現状と今後の
動向は、これからも注視しなければならないのだ。
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■■選書コメント
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本書は、ご存じ経営コンサルタントの大前研一氏が、中・東欧諸国
におけるビジネスの可能性を、仔細なデータと現地取材で収集した
事実に基づいて、さまざまな角度から考察していく本です。
大前氏は、各所で「現場で検証することの大切さ」を説いています。
今回の書籍も、自ら足を運び、見聞してきたことをベースに論旨展
開しており、読み応えのある内容になっています。
それにしても、わずか数年前に「これからは中国だ!」と騒がれは
じめ、ビジネスの世界は中国一辺倒になりました。経営者たちは、
こぞって中国詣でに出かけるようになりました。
そのため、本書のタイトルを見て「やれやれ、こんどは中・東欧か」
と、思った方もいるかも知れません。確かに反日デモなどもあって、
中国投資熱は、やや水を差された格好になっています。
しかし、本書は中国から中・東欧諸国へのシフトを提唱するもので
はありません。中国の大切さを前提にしつつも、他の国にもしっか
りと目を向けておくことを提言しているのです。
果たして、われわれは中・東欧諸国についてどれだけ知っているで
しょう?文化の拠点、観光地としての魅力は知っていても、ビジネ
スの対象としては、ほとんど無知なのではないでしょうか?
本書を読めばこうした国々の、ビジネスの実情がよくわかります。
そして、これらの国々が、今後ビジネスの世界で、影響力を増して
くることを実感することができます。
これに対し「いたずらに危機感を募らせず、うまく活用せよ」と、
著者大前氏はコンサルタントらしく合理的な方向に導きます。そし
てその具体的なアイデアをたくさん紹介しています。
経営者や幹部、国際舞台で活躍する社員だけでなく、新しいビジネ
スチャンスを探るすべてのビジネスパーソンに、最低限目を通して
いただきたい1冊です。
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