無料版・バックナンバー
- ビジネス選書&サマリーのバックナンバーをご覧いただけます。
2005/12/02
萌え経済学
2005年4月21日の日経平均株価は、一時1万770円となり、年初
来安値を更新した。ところが、こうした中、東京証券取引所では一
部の銘柄が急騰するという異変が起こった。それが「萌え」株だ。
「萌え」とは「アニメなどのキャラクターをこよなく愛すること」
だ。異性と恋愛機会を失ったオタクたちが、恋愛の対象をキャラク
ターという人間以外の存在に求める行動が「萌え」なのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■
■■ ビジネス選書&サマリー
■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 48,642部>━
■今週の選書
■萌え経済学
■森永卓郎
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■
■■ 選書サマリー
■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「萌え」という文化をビジネスの視点から分析
【1】
2005年4月21日の日経平均株価は、一時1万770円となり、年初
来安値を更新した。ところが、こうした中、東京証券取引所では一
部の銘柄が急騰するという異変が起こった。それが「萌え」株だ。
「萌え」とは「アニメなどのキャラクターをこよなく愛すること」
だ。異性と恋愛機会を失ったオタクたちが、恋愛の対象をキャラク
ターという人間以外の存在に求める行動が「萌え」なのだ。
「萌え」ビジネスの特徴は、大きな資本を必要とせず巨大企業を生
まないことだ。「萌え」の対象はオタクにとって恋人代わりで、し
かもオタクは自分の理想の恋人をキャラクターのなかに作り込んで
いく。だから、大量生産品が「萌え」の対象になることはないのだ。
結果「萌え」の世界は、通常の産業とは比較にならないほど、多様
化が進む。そもそも「萌え」ビジネスを扱う会社には、上場する気
力も、体力もないのが普通なのだ。
【2】
「萌え」の世界に大量生産の論理を持ち込んで上場しているのは、
ごく一部の企業だ。今回の「萌え」株急騰は、こうしたオタクビジ
ネスを手掛ける数少ない「萌え」分野の上場企業に、IT株に次ぐ
2匹目のドジョウを狙った個人投資家が殺到したためだ。
「萌え」株は、4月の急騰以降急落し、現在は急騰前の2倍程度で
横ばいになっている。今後「萌え」関連株が急騰することはないだ
ろう。それでも「萌え」市場は成長し日本の主力産業になるはずだ。
ただ、その市場は大企業よりも無数のマニアックな零細企業、自ら
もオタクである零細企業が支えていくはずで、株式市場を急騰させ
るような勢力にはならないというだけだ。
「萌え」市場は、確実に膨らんでいる。やがて「萌え」が、日本の
経済や社会の構造まで、根本的に変えていくほどのインパクトにな
る可能性すらあるのだ。
【3】
「萌え」市場に関する最近の推計は2つある。1つは野村総合研究
所が2004年8月に発表したオタク市場の規模推計だ。この推計では、
アニメ、アイドル、コミック、ゲームの4分野に組み立てPCを加
えた市場規模を、2900億円としている。
これに基づいて「マニアの消費市場に対する影響力と市場規模は、
もはやニッチとは言えない」と結論づけている。しかしこれは、桁
違いの過小推計と言える。
まず、取り上げる分野に問題がある。アイドル市場とアニメ、コミ
ック、ゲームの市場が一緒くたになっているが、これらの市場は完
全に異なる市場と考えるべきだ。
そして、アニメ、コミック、ゲームの市場を支えているのは「萌え」
の人たちだ。野村総研のレポートは、この「萌え」のコンセプトを
理解していない。
「萌え」市場には、3つの融合化が存在している。まず、メディア
との融合化、第2は需要者と供給者の融合化、第3は新品と中古品
の融合化だ。これらを踏まえれば、おそらくオタク市場は現時点で
すでに数兆円の規模に達しているはずだ。
【4】
もう1つの推計は、浜銀総合研究所のものだ。2005年4月に発表さ
れたレポートの中で、浜銀総研は2003年のコンテンツ市場における
「萌え」関連は888億円とした。
野村総研より一歩進んで「萌え」に絞った努力は評価できるが、市
場規模は明らかに過小推計だ。「萌え」市場には、他にフィギュア、
トレーディングカード、メイド喫茶、コスプレ衣装なども含めるべ
きだが、これらは推計に入っていない。理由は、統計がないからだ。
ビジネスを展開しているのは、中小、零細企業か個人ばかりで、し
かも資金の循環はオタク間で行われる。このような閉鎖市場では、
統計が取れないのだ。
それでも「萌え」市場は膨らんでいる。こうした市場では、大企業
でなく、零細企業や個人が活躍するようになる。それは、経済だけ
でなく、社会のあり方までを変えてしまうかもしれないのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■
■■選書コメント
■■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今週の選書は、森永卓郎氏の最新刊です。森永氏と言えば、あのベ
ストセラー『年収300万円時代を生き抜く経済学』の著者であり、
テレビでもおなじみです。
本書は、最初タイトルから、奇をてらったキワモノと思いました。
しかし、読んでみると本格的な「萌え」論でした。専門分野の経済
論としてはもちろん、社会論、文化論としても読み応えがあります。
著者は「萌え系」「アキバ系」のよき理解者を自認されており、本
書でも多くの現場取材をされています。机上の理屈をこねくり回す
だけの、斜に構えた論説と異なり、迫力のある内容です。
「萌え」は、サブカルチャーなどと呼んで片づけることのできない
巨大マーケットに成長しています。玩具や飲食、イベントなど様々
な分野を巻き込んで、さらに成長を続けています。
その勢いは、海外にも飛び火しています。「萌え」の原点はコミッ
クだそうですが、日本のコミックは世界中で市民権を得ており、今
後「萌え」の輸出が本格化すれば、影響はさらに大きくなります。
秋葉原に集まりパソコンに没頭する人たちは、かつてオタクと呼ば
れ、異端視されていました。しかし、IT革命が起きると、評価は
180度変わりました。同じことが「萌え」にも起きるかも知れません。
「萌え」に抵抗を持つ人も多いと思います。しかし今後そのような
スタンスが許されなくなる日が来るかも?知れません。「萌え」の
理解がないとビジネスが語れなくなる可能性すらあるからです。
少なくとも、社会現象としては抑えておいてもいいでしょう。本書
は「萌え」をビジネスの視点から説いた、唯一の教科書です。「萌
える」オタクの人や「萌え」を商売に活かしたい人はもちろん「萌
え」が全く理解できない!という人まで、すべてのビジネスパーソ
ンにお勧めです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━