無料版・バックナンバー
- ビジネス選書&サマリーのバックナンバーをご覧いただけます。
2006/02/10
這い上がれない未来
「格差社会」という言葉が盛んに論議されている。この言葉が一般
的になったのは、数年前、佐藤俊樹氏が書いた『不平等社会日本』
(中公新書)がさきがけだ。
この本は、10年おきに実施している「社会階層と社会移動全国調査」
をもとに「日本の社会階層は固定されつつある」と論じている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■
■■ ビジネス選書&サマリー
■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数49,221部>━
■今週の選書
■這い上がれない未来
■藤井 厳喜/光文社
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このままでは這い上がれない!どうすればいいのか?を提言します!
【1】
「格差社会」という言葉が盛んに論議されている。この言葉が一般
的になったのは、数年前、佐藤俊樹氏が書いた『不平等社会日本』
(中公新書)がさきがけだ。
この本は、10年おきに実施している「社会階層と社会移動全国調査」
をもとに「日本の社会階層は固定されつつある」と論じている。
1980年代に登場した「一億総中流」は一種の幻想だった。長いこと
日本人はこの幻想に酔い、社会の実態を知らずに来た。そして、よ
うやく今、階層社会の現実に目覚めつつあるというわけだ。
現実に、わが国の等価化処分所得によるジニ係数(ゼロと1の間で
その間が大きいほど、所得格差が大きいことを示す)は、31.4%と
アメリカやイタリア、ニュージーランド、イギリスなどと並び高い。
しかも、90年代半ばから2000年にかけて拡大し続けているのは、日
本とイギリスだけだ。なぜ日本の所得格差は広がってしまったのか。
【2】
『不平等社会日本』では、格差が広がった大きな理由のひとつとし
て、サラリーマン階層の固定化を挙げている。ホワイトカラー層は
親子間で継承されやすいというのだ。
高給取りの子どもは高給取りのサラリーマンになる可能性が高い。
その一方で、高給サラリーマンになれない低収入の人々がどんどん
増加しているのだ。
この「下流社会」の中心は就職難などにより正規雇用から締め出さ
れた若者たち、つまりフリーター層だ。彼らの平均年収は100?200
万円。生涯賃金はサラリーマンの4分の1だ。
内閣府によれば15?34歳のフリーター人口は、2001年時点で417万人、
この10年間で2倍だ。「中高年フリーター」の増加も目立つ。UF
J総合研究所の試算では、この層が2021年には200万人を超える。
【3】
格差を生む重要な要素がもうひとつある。中流層が下流に転落して
いることだ。この事実を端的に表しているのが、国税庁が2005年9
月に発表した「民間給与の実態」という調査だ。
この調査では、サラリーマンの給与は7年連続でダウンしている。
とくに500?1000万円の中・高所得層が減り、年収300万円以下が急
増している。1000万円以上の高給サラリーマンも減っている。サラ
リーマン全体が「負け組」になりつつあるのだ。
下流社会の人口は、このように増加の一途をたどっており、今後の
マーケットの主流になりつつある。
実際、すでに「下流マーケティング」を進めている業界は少なくな
い。マクドナルドの100円アイテムに代表される外食産業やファース
トフード産業、100円ショップや量販店などがその代表だ。
格差がもたらす時代の変化を、実感として認識する人は多いはずだ。
所得が低く、親と同居するしかない若者は、なかなか結婚できない。
結婚が成立するカップルは、所得の高い男女のみだ。専業主婦はど
んどん減り、今や超高所得男性の「奥様」くらいだ。
【4】
もちろん本来、格差はあってしかるべきものだ。むしろ、努力と能
力次第でチャンスが開けることが望ましい。しかし、日本で起こっ
ている現象は「チャンスなき格差」だ。
低所得者に対する、政府の社会保障給付や税制は、他国に比べて手
厚いとは言えない。結果、富の再分配が低くなり「下流」はますま
す貧しくならざるを得ない。
また、フリーターなどのパート労働者とサラリーマン正社員の所得
格差が大きい。これがいびつな格差社会を助長している。
このまま旧エリート階層を居座らせたままでは、増税と福祉カット
で、ますます階層を登るチャンスは狭められていくばかりだ。そし
て国家破産へのスローデス・シナリオが進んでいくだけだ。
格差社会の到来はさけられないし、さけるべきではない。だが、そ
の前に、国民は「口先だけの改革」や「それを取り仕切っている者
たち」を打倒しておかなくてはならないのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■
■■選書コメント
■■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本書は、日本の国家破産は避けられないとし、それをきっかけに新
たな格差社会が到来すると展望、その時われわれはどう生きたらよ
いのかを提言する本です。
最近の株高や雇用情勢の好転もあって「日本経済も持ち直した」と
安心している人は多いようです。しかし、日本の財政や国際的大競
争を考えると、未来が楽観視できるほどとは思えません。
現在、企業の業績が好転しているのも、働く側の犠牲があればこそ
です。それが、中流階級の下流転落を引き起こし、格差を広げてい
ます。今後、この格差はますます広がることが予想されています。
ところで、私は書籍の選定にあたって、悲観論に終始した本は避け
ることにしています。もちろん、現実が厳しいからといって、それ
に目を背けるだけのお気楽な本、現実逃避的な本は論外です。
厳しい実情を指摘しながらも、それに対する処方箋を明確に示す書
籍を紹介するように心がけています。しかも、国家や企業への注文
だけでなく、自分の行動につながる提言をする書籍を選んでいます。
その点、本書は、我々が今後どんな社会に直面するのかについて、
海外の事例も織り交ぜながら、包み隠さず紹介しながら、それに対
する具体的な対処法も解説してくれています。
下流に転落することを、ただおそれるのでなく、実際にどんな人が
下流に転落してしまうのか、どうすればそうならずに済むのか、そ
のあたりが、著者の視点から提唱されています。
格差社会の到来は避けられないとしても、少しでも上を目指したい
と考える、ポジティブなビジネスパーソンに一読いただきたい一冊
です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━