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2006/02/24
プロフェッショナル広報戦略
1998年11月。参議院補欠選挙で初当選した私は、NTT広報マンか
ら政治家へと転身した。同年9月に参議院議員だった叔父が逝去。跡
を継ぐ気はなかったが、森喜朗氏の熱心な勧めもあり出馬を決意した。
NTTでは、企業と消費者をつなぐ役割を果たしていたが、その後、
政治と国民を結ぶ仕事をするようになった。企業広報時代、私の最
大の任務は、トップのコミュニケーション戦略を立てることだった。
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■■ ビジネス選書&サマリー
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■今週の選書
■プロフェッショナル広報戦略
■世耕 弘成/ゴマブックス
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元NTTの広報マン、現在自民党広報改革プロジェクトのリーダー
が、21世紀型戦略的広報のあり方を説きます。
【1】
1998年11月。参議院補欠選挙で初当選した私は、NTT広報マンか
ら政治家へと転身した。同年9月に参議院議員だった叔父が逝去。跡
を継ぐ気はなかったが、森喜朗氏の熱心な勧めもあり出馬を決意した。
NTTでは、企業と消費者をつなぐ役割を果たしていたが、その後、
政治と国民を結ぶ仕事をするようになった。企業広報時代、私の最
大の任務は、トップのコミュニケーション戦略を立てることだった。
日産自動車のカルロス・ゴーンさんしかり、キヤノンの御手洗冨士
夫さんしかり、トップは会社の顔であり、一番の広告塔だ。マスコ
ミを通じ、トップのメッセージをどのように世の中に伝えていくか
が、広報マンに課せられた使命だ。
私は自らをコミュニケーションのプロと位置づけ、自分のライフワ
ークは広報だと考えていた。
【2】
私の原点となったのが、かの「リクルート事件」だ。1988年に起き
た、リクルートコスモス社の未公開株譲渡の違法性をめぐる事件は、
朝日新聞横浜支局のスクープに端を発した。その後、政・財・官、
マスコミを巻き込む戦後最大級の汚職事件へと発展していく。
NTTは当時、米国製スーパーコンピューターの購入や、回線リセ
ール事業などでリクルートコスモス社と協力関係にあった。やがて、
NTT真藤恒会長が同社の未公開株を譲り受けていたことが発覚、
会長を辞任することとなる。
このとき私は平社員にすぎなかった。だが、一連の騒動から、決定
的に重要なことをいくつか学ぶこととなる。
そのひとつが「企業イメージの悪化を避けるには、マスコミ取材に、
できるだけ誠実に、オープンに対応しなければならない」というこ
とだ。しかも早い段階で手をうつことが大切だ。
【3】
NTTでは、社内にまで取材カメラを入れ、会社に捜査が入ったと
きでも検察が許すギリギリの地点まで報道陣に情報を公開した。記
者会見を頻繁に開いて情報提供をおこない、自分たちがわかる範囲
のことは、すべて説明するようにした。
おかげでマスコミとの信頼関係を築くことができ「何も隠さないが、
組織として言えないこともある」という姿勢を理解してもらえた。
こうした努力の甲斐あって、辞任騒ぎで袋叩きにあったNTTも、
会社の体質に対しては、さほど批判が出なかった。
ところが、政界に入るとトップのコミュニケーション戦略はおろか、
政府首脳はまるでノーガードであることがわかった。内閣総理大臣
や官房長官、自民党幹事長は入念な準備をして記者会見に臨み、コ
メントするのかと思っていたら、そうではない。
朝夕の記者会見でも、安部晋三官房長官は、役所が作った想定メモ
を読み、ラインマーカーを引くだけ。その間、わずか20分だ。
総理も同様。部屋を出ると記者に取り巻かれるため、言わなくてい
いことを言ってしまったり、日によって一言も喋らなかったりする。
こうした生の姿がそのまま国民にさらされ、世界に向けて発信され
るのだから、誤解や曲解を受けかねない。国益に関わる問題だ。
【4】
私は「政府広報が民間企業に遅れをとってはならない」と考え、総
理に広報改革を進言した。だが、当初この試みはうまくいかなかっ
た。コミュニケーションの天才である総理のハートに「組織的な広
報戦略」というキーワードが響かなかったのだ。
チャンスが訪れたのは、2005年の解散総選挙だ。2003年の総裁選で
自民党は、民主党に事実上の敗北を喫していた。そこで安部幹事長
に広報体制の改革を改めて申し出たところ、聞き入れられたのだ。
私は、広報本部長代理という肩書きと幹事長補佐という権限を得て、
広報戦略を展開することとなる。コミュニケーション関係の党職員
を集め『コミュニケーション戦略チーム』の立ち上げを決意する。
幹事長室、遊説局、広報局、報道局はもちろん、外部のPR会社な
どにも結集してもらい、新しい組織を作ることにした。かくして解
散総選挙に向けた、あらたな戦いが始まったのだ。
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■■選書コメント
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本書は、秋の総選挙で広報戦略を取り仕切った、参議院議員の世耕
弘成氏の著書です。世耕氏は、NTT広報部の報道担当課長から参
議院議員に転身し、政界入りしたユニークな人物です。
その世耕氏が、先の選挙戦で自民党の圧勝に大きく貢献した広報の
舞台裏を熱く語ります。さらにメディア社会における広報戦略の重
要性にまで言及していきます。
自民党は、選挙にメディアをうまく使った例ですが、失敗してすべ
てを失う人もたくさんいます。それほどメディアの影響力は大きく、
扱いには細心の注意が必要です。だからこそ、ある程度の規模の会
社には、必ず広報があるのです。
ところが、政治の世界には、これまでまともな広報戦略はなかった
そうです。首相も、官房長官も幹事長も、役所が作った想定問答集
を手に、数分の準備で記者会見に臨んできたというのですから驚き
です。
本書を読んで、秋の総選挙を振り返ると、政治がメディアをうまく
使うようになってきたことが、よく分かります。だからこそ、受け
手であるわれわれも、広報をよく理解し、本質を見抜く眼を鍛えな
くてはなりません。そんな風に、相手の手の内を知るつもりで本書
を読むのも面白いと思います。
そのような意図がなくても、もちろん本書は楽しめます。舞台こそ
政治ですが、話題は広報、そしてコミュニケーションです。コミュ
ニケーションと無縁のビジネスなど無いのですから、誰もが自分の
関わるビジネスに当てはめて読むことができます。
著者が、戦略的広報を組織に根付かせるプロセスは、企業の組織改
革そのもの、まさに政界版プロジェクトX(古い?)です。現役広
報マンはもちろん、すべてのビジネスパーソンが楽しめるはずです。
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