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2006/07/14
臆病者のための株入門
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証券会社が１株61万円でジェイコム株を売却しようとしたところ、
誤って１円で61万株を売り出してしまった。そのおかげで、20億円
を手にした27歳無職の男性がいる。
のちに、彼はマスコミの取材に対し「学生時代にアルバイトで貯め
た160万円を元手に５年前から株式投資を始めた。現在の資産は100
億円くらいだ」と答えている。
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■■ ビジネス選書＆サマリー
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■今週の選書
■臆病者のための株入門
■橘 玲／文藝春秋
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ふつうの人が、株でカモられずにお金を増やすには？？
【１】
証券会社が１株61万円でジェイコム株を売却しようとしたところ、
誤って１円で61万株を売り出してしまった。そのおかげで、20億円
を手にした27歳無職の男性がいる。
のちに、彼はマスコミの取材に対し「学生時代にアルバイトで貯め
た160万円を元手に５年前から株式投資を始めた。現在の資産は100
億円くらいだ」と答えている。
つまり、たった５年で100万円を100億円にしたことになる。彼は、
ＰＥＲやＰＢＲなどの経済知識には全く興味がないという。売買し
ている株の会社がどんな仕事をしているのかもよく知らないそうだ。
たしかに株価の動きを見ながら売買を繰り返すデイトレードやスイ
ングトレードでは、そうした知識は役に立たない。これは株がコイ
ン投げやサイコロなどと同じ「ギャンブル」であることの証だ。
【２】
それにしても、なぜギャンブルという偶然性のゲームが、５年間で
100万円を100億円に変えるという奇跡をもたらすのだろう？その秘
密は「複利」と「レバレッジ」という仕組みにある。
複利とは、元金から得られた利益を元金に組み入れることでもたら
される、より大きな利益のことだ。たとえば、年利10％の定期預金
に10万円を預けると毎年の利息は１万円だ。
これを10年引き出し続けると10万円の利息と10万円の定期預金が残
る。だが、1万円という年利を元金に組み入れれば、利息はさらに大
きくなり、10年後の口座残高は26万円となる。
また、レバレッジとは投資の元金を誰かから借りてきて、さらに大
きな利益をねらうことだ。金融商品のなかで、もっともレバレッジ
が効くのが先物取引だ。先物では平均株価1000倍を１枚と数える。
2005年11月の日経平均株価は約１万4000円だった。したがって、70
万円の頭金で先物１枚1400万円分が買える。株価が400円上がれば利
益は40万円となり、口座残高の30万円とあわせればもう一枚買える。
この調子でレバレッジをかけつつ、複利を運用すると、株価の上昇
につれ、利益はぐんぐん増えていく。５年で100万円を100億円にす
ることも不可能ではないのだ。
【３】
もっともこの夢の投資法には問題がある。レバレッジをかけている
分、損失もふくらんでしまうのだ。実際、私もこの夢と悪夢の狭間
でさまよったことがある。
1999年、ＩＴバブル絶頂期の頃だ。当時、私は１ヶ月で100万円を１
億円に殖やそうという計画に夢中になっていた。
私がとりつかれていたのは「モメンタム戦略」という手法だ。相場
が上がっているときはひたすら買い、下がっているときは売りまく
るという方法だ。
経済学者たちによれば、モメンタム戦略を実践すれば、平均的な運
用成績を10％近く上回る効果を得られるとのことだった。しかし、
結局、私は挫折してしまった。
【４】
寄付きをチェックしたあとベッドに入り、大引け前に起きて売買す
れば、睡眠時間は確保できる、これが当初の目算だった。しかし、
甘かった。株価の上昇につれ「突然暴落したらどうしよう」という
強迫観念に悩まされ、眠れなくなってしまったのだ。
しかたなく一晩中パソコンに向かい、徹夜を繰り返すうちに精神的
にも体力的にも限界状態となった。複利とレバレッジによる投資は、
ハイリターンな分、相当ハイリスクなのだ。この取引を続けている
と、論理的には最後に破綻がやってくる。
このプレッシャーに耐え、投資できるのは「27歳無職」の肩書きを
持つ、ジェイコム株氏のような人間だけだ。家族や仕事を持つ人に
は、とても無理だろう。
市場には魔法使いが住んでいる。その魔法使いはニートをヒーロー
にすることができる。その一方で、億万長者を一夜で塀の中の住人
にすることもできるのだ。そして、自分にどんな魔法がかけられて
いるのかは、誰も知らないのだ。
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■■選書コメント
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ご存じ「ゴミ投資家」シリーズや、経済小説『マネーロンダリング』
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』など、数々のベストセラ
ーを生み出した著者による株式投資指南の本です。
私は著者のファンで、著者はほとんど読みました。私以外にも「氏
の作品から、大きな影響を得た」と語る人は少なくありません。著
者の作品が良いのは「読んで面白く、しかもためになるから」です。
これは、著者に専門知識と表現力の両方が備わっているからこそで
きることです。残念ながら、両方を兼ね備えた書き手は、多くあり
ません。役立つ本はつまらないし、面白い本は役立たないのです。
その点、橘氏は、生命保険や税金、株式など、お金にまつわるやや
こしい話を、シンプルに、わかりやすく解説してくれます。表現が
豊かなので、金融の話なのに娯楽読みもののように引き込まれます。
わかりやすさは、著作の随所に見られます。たとえば「債券投資は
金利を、株式投資はひと株あたりの利益を予想するゲームだ」など、
本質をついた表現は「なるほど」と納得させられます。
この調子で、ジェイコム株の誤発注や、ライブドア事件など、最近
の話題をズバリと解説してくれます。金融商品のメリット・デメリ
ット、投資の世界の流派の違いなどを解説してくれますので、投資
の世界が俯瞰できるようになります。
なお、この手の本にありがちな、抽象論に終始してしまうこともあ
りません。最後の章で、著者お薦めの投資法を、具体的に、ロジカ
ルに紹介してくれます。
「これから投資を始めたい」と考える初心者はもちろん「これまで
我流で投資してきたが、一度、体系的に整理しておきたい」と考え
る人には、絶対にお薦めです。
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