2014/11/07
アイドル国富論
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アイドルの消費論
アイドルと日本経済には密接な関係がある。戦後日本経済の歴史は、大きく、戦後経済の混乱期、高度経済成長期、戦後経済成熟期、バブル経済期を経て、現在に至ると考える。「アイドル」については、歌手という形で60年代から70年代初頭に生まれ、80年代に一つのピークを迎え、90年代の「アイドル冬の時代」で断絶、また97年のモーニング娘。以降、再び勃興してきた...
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■今週の選書
■アイドル国富論
■境真良
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■■選書サマリー
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アイドルの消費論
【1】
アイドルと日本経済には密接な関係がある。戦後日本経済の歴史は、
大きく、戦後経済の混乱期、高度経済成長期、戦後経済成熟期、バ
ブル経済期を経て、現在に至ると考える。
「アイドル」については、歌手という形で60年代から70年代初頭
に生まれ、80年代に一つのピークを迎え、90年代の「アイドル冬の
時代」で断絶、また97年のモーニング娘。以降、再び勃興してきた。
これを日本経済の大きな区分に重ねて見ると「アイドルの時代」と
は、戦後経済成熟期と現代という「行き詰まった時代」に重なる傾
向がある。
そもそも、経済政策は国際経済の構造を背景に「有権者」すなわち
「消費者」の心理と、政治家や官僚などの政策担当者の思想から生
まれた人為の産物だ。
日本経済が「アイドル」の興亡を引き起こしているなら、経済政策
もまたその影響を受けるのだから、「アイドル」の興亡と経済政策
の変化が、歩調を合わせることも偶然ではない。
【2】
「アイドル」の定義とは「アイドル」が生まれた1970年代で言うと、
若くて、歌手で、メディアミックス的に活動し、目の覚めるような
美貌や声や演技力には恵まれてない非実力派だ。
私たちが非実力派を好むのはなぜか。まず「実力派スター」と「非
実力派アイドル」の比較として、容姿における「実力」である「美
しい」と、アイドルの関係について考えてみる。
「美しい」という言葉との対比で、アイドルの形態的特徴は「かわ
いい」だ。「美しい」はしばしば触れることの禁忌と不可能性と結
びついている。
一方「かわいい」は触れたい、庇護してあげたいという欲求を引き
起こす。つまりそれは「支配したい」という欲求と同義であり、対
象を自分より下の、劣等な存在と見なすことにも通じている。
【3】
しかし「庇護し、支配したい、劣等な存在を選んだ」と言われれば、
アイドルファンも反論するはずだ。それは「気後れするような素晴
らしい異性に挑戦すべきた」とされてきたからだ。
「文化の源流を学び、自分をそれに同化させるか、接続させること
は、源流へのリスペクトとして当然だ」という規範を認めてしまっ
ているからだ。
この規範に従い、強いものに挑み、困難に挑戦し、源流に忠実であ
ろうとする姿勢を「マッチョ」と呼び、反対にこれに背いて闘いか
ら逃走する姿勢を「ヘタレ」と呼ぶことにする。
この視点から見て「アイドル現象」が示唆するのは、戦後日本経済
は1980年代まではマッチョ主義を社会の公式規範としながら、その
実態は60年頃から次第にヘタレていったということだ。
【4】
なぜ、日本の市民意識は、公定にはマッチョ主義を保持したまま、
60年代ごろからヘタレてしまったのか?まず、60年代に日本的経営
が見せてくれた将来像が大きく変わったことがある。
そのため、将来に大きな夢を抱けなくなった人たちにとって、自ら
の主体性を実現できる可能性が「消費者」の次元にしか見出せなく
なった。
そのため、私たちは消費活動による豊かさの実感を、他者とのコミ
ュニケーションの中で確認する必要があった。ここで最も使いやす
いのが、マスコミが提供する娯楽コンテンツだった。
特に「アイドル」は仲間を形成する上で有用だった。こうして消費
者の中からアイドルをネタにした「ゲーム」が生み出された。すな
わち、アイドルを「見出し」「支え」「育てる」ゲームだ。
極論を言えば「アイドル」とは、身の回りのコミュニケーションゲ
ームの道具、「駒」だったのだ。「駒」として重要なことは、魅力
を持ち過ぎないことだ。
魅力は、選ぶ側の自由度を奪ってゲームを台無しにし、主体的選択
者としての誇りを土足で踏みにじるからだ。アイドルのゲームは、
マッチョ主義から逃避するヘタレのゲームなのだ。
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■■選書コメント
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アイドルの歴史と日本経済の流れ、そして両者関係から、日本社会
のあるべき姿を探るという、壮大にしてユニークな、極めてまじめ
な本です。
アイドル史をたどりながら、それを支える仕組み・環境、またアイ
ドルを生み出す社会の変遷を学びます。芸能プロダクションという
ビジネスモデルなどもわかります。
アイドルと経済の半世紀の歴史を踏まえながら、文化論と産業論を
統合するという挑戦的な本です。そこから「中産階級主義」という
戦後日本経済の傾向を導き出し、その意味を考えていきます。
アイドルの本ということで、このメルマガの趣旨とは反しそうです
が、一読すればわかる通り、本書はれっきとした文化論であり、産
業論です。
著者は、エンターテインメント産業の研究者であると同時に、現職
の官僚です。その視点から、国際経済や消費者心理、政策担当者の
思惑を加えながら、日本の文化と経済の歴史を分析していきます。
構成は、アイドルと、メディアやエンターテイメント産業を時系列
に解説しながら、当時の市民心理や社会情勢から、アイドルが生ま
れた背景を考えていきます。
面白いのは、アイドルが「経世済民」の力を持っているという説で
す。日本が中産階級の国であり、アイドルが彼らの救世主になると
いう説は新鮮でした。
サブカルチャーやエンターテイメントなどの歴史に興味のある人は
もちろん、戦後の日本をおさらいしたい人や日本という国のあり方
を考えたい人にもお勧めします。
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