著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2006/06/13
1分間に1万字読める!速読脳の開発法 ‐ 佐々木 豊文さん
- 今月は『「絶妙な『速読』の技術(明日香出版社)」』の著者、佐々木 豊文氏にお話を伺います。本書は、ビジネスパーソンに向けて、速読の魅力や、具体的な修得法、求められる資質などを簡潔に紹介した本です。速読というと超能力のように考えてしまいがちです。しかし、本書は20年以上も速読を研究してきた、いわば速読の権威である著者が、極めて科学的に、速読のメカニズムを解説してくれます。
佐々木 豊文(ささき・とよふみ) さん
NBS日本速読教育連盟理事長。1950年生。東京工業大学卒。同大学院修士課程修了後、同大学助手。工学博士。1981年から、シルバ・メソッド講師。1984年、速読教室を開校。1986年、NBS日本速読教育連盟設立。目白大学などで速読法の講座を担当。1987年、日本医大の故品川嘉也教授と共同研究で速読者の脳活動を測定。以来、情報通信研究機構、東京大学などとも共同研究を進めている。特に、東京大学との共同研究には、文部科学省から研究助成金が交付されている。2002年のNHK「ためしてガッテン」、2004年のTBS「世界バリバリ・バリュー」で、1万字/分の速読を指導し、大きな反響を呼ぶ。
第一回 誰でも1分間に1万字が読めるようになる?!
●まず、佐々木さんのお仕事から教えてください
佐々木 NBS日本速読教育連盟という速読の教室の理事長を勤めています。
●そもそも、どんなきっかけで速読に関心を持たれたのでしょうか。
佐々木 もともと私が研究していたのはアメリカの「シルバ・メソッド」という能力開発プログラムでした。右脳開発、セルフコントロールをおこなってリラックス状態を呼び起こし、感性を高めるのですが、非常に効果が高い。それこそESPと同レベルの能力を引き出すことも可能です。しかし惜しいかな、知的な面に結びつけるのが難しく、悩んでいました。
そんなとき、韓国に速読力の開発プログラムがあることをたまたま知ったのです。さっそく韓国へ渡り、そこで韓国ソウル大学校のパク・ファーヨップ先生に出会いました。先生が創案したメソッド「速読脳開発プログラム」に触れ、これだ、と直感したのです。その後、先生が来日し、なんと40日間もかけてプログラム内容を伝授してくださいました。
●それを日本流にアレンジされたわけですね。
いえ、アレンジというより体系化したというべきでしょうね。パク先生のプログラムは「やっているうちにできるよ」というような体験型の内容だったので、一般の方には伝えづらい面もありました。ですから今、自分がどういう段階にいるのか、どういうことに注意すればいいのか、といったことがわかるメソッドを確立する必要があったのです。いわば自動車教習所の教育プログラムのようなものですね。
●なぜ、このたびご著書を執筆することにしたのですか?
佐々木 1人でも多くの方に、速読の良さを知っていただきたかったからです。わかってもらいたくて書籍を執筆したのです。速読というといっても「本当かな」と躊躇してしまう人が少なくありません。私は、速読脳開発の効果を、科学的かつ客観的に証明することに取り組んできました。視覚や脳の変化についてデータを収集し、パク先生とともに分析を続けてきたのです。それの成果を一般の人にも伝えたくて、書籍を発刊しました。
●たしかに、速読力というと超能力のようにとらえている人が少なくないと思います。その点、本書は非常に科学的に書かれているので納得できます。受講している皆さんは、あっというまに速読をマスターしてしまうんですよね。
佐々木 まあ、そう簡単にはいきませんが、訓練し、原理のエッセンスを体得すれば、どんな人でも一定の効果は期待できますよ。とりあえずの目標は「1分間に1万字」。これくらいなら、精神的な問題や、肉体的な支障を抱えていない限りクリアできると思います。
●誰でも、といってもやはり差はあるのでしょうね。年齢や性別などは影響しますか。
佐々木 私の教室には、いわゆる一流企業の役員から、小学生まで、じつにさまざまな年齢層の人が訪れます。こうした方々を見ていると、年輩の方のほうがかえって伸びる、という傾向はありますね。それでもやはり年齢差や男女差などより、個人差のほうが影響は大きいといえるでしょう。
●個人差ですか。ご著書ではスキルだけでなく、生活全般――たとえば食生活や読書習慣などで、伸び方は大きく違うと述べておられますが。
佐々木 そうですね。もともと持っている能力や資質には、かなり個人差がありますね。たとえば集中力一つにしても、十人十色です。ぱっと気持ちを切り替えて本に熱中できる人もいるかと思えば、いつもいろいろなしがらみを抱えていて、なかなかそういかない人もいる。こうなるとスタートラインからして変わってくるわけです。
●本書では、必要な資質についても触れていらっしゃいますね。
佐々木 必要な資質はいくつかあります。第一に健康です。ここで言う健康とは、見た目の健康のことではありません。普通に生活し、仕事をしていても、じつは本人にもわからないようなトラブルを体が抱えていることがあります。精神的な問題が潜んでいる場合も少なくありません。そのために、集中力が発揮できなくなってしまうのです。
次に性格。外交的な人と内向的な人とでは、集中のしかたが違います。また、緊張しやすい人より、簡単にリラックスできる人のほうが向いています。リラックスし、なおかつ集中力が高まっているという精神状態がもっとも速読に適しているのです。いずれにせよ、訓練次第で集中力を高めることは可能です。 (第二回につづく)
第二回「速読を通じて日本人の国語力を高めたい」
●速読のトレーニングをすることで、集中力もつくわけですか。
佐々木 ええ。なかには「これだけ集中力がつけば、速読力の方はそこそこでいい」という方もいます。つまり、速読脳の開発とは、潜在能力の開発にほかならないわけです。もちろん、速読できるようになれば、情報処理力が高まり、あらゆる場面で役立つことはいうまでもありません。しかし、そもそも速読とは、潜在的な能力開発をおこなった結果、現れてくるひとつの成果なのです。どのくらい上達したか、数字でとらえることもでき、わかりやすいものさしといえるでしょう。
●能力開発をおこなって、読書能力の限界を追求することで、それに付随するいろいろなメリットを体感することができる――というわけですね。速読脳の開発を通して、どんなことを目指しておられるのでしょうか。
佐々木 日本人の国語力を高めること。それも、少し広い意味での国語力、読書力を培いたいというのが、私の希望です。「速読」という言葉ばかり先行しがちですが、基本はあくまで「読書能力」の開発だと私は考えています。もともとパク先生がソウル大学で実践していたプログラムも「読書能力開発プログラム」と呼ばれていました。
読書の研究は昭和40年代までおこなわれてきましたが、その後、すっかり下火になってしまった。テレビが台頭してきたためです。しかし、最近になって読書力の低下が問題視されるようになり、再び「速読」というかたちで、読書研究にスポットがあてられるようになりました。
●この頃は本読む人が減りましたからね。だから僕もメールマガジンなどを通して、もっと読書しようと呼びかけているわけですが。みんなが読書を避ける理由のひとつに「面倒くさい」「時間がかかる」といった事情があるかと思いますが、早い段階でスキルを身につける人が増えれば、それだけ読書人口も多くなるでしょうね。
佐々木 その通りです。だからこそ今、読書能力の開発が急務なのです。日本人は、自分たちが今まで読書の教育を受けていないという事実を自覚するべきです。
読書能力というのは「正確に理解する」「速く理解する」この両方があって初めて成り立つもの。ところが、これまでの学校教育「国語」では、前者の方ばかりに力が入れられてきた。つまり半分教育をしただけなんです。それなのに試験では大量の問題を読みこなさなければならない。社会に出ても、膨大な文字情報を吸収しなければ、仕事になりません。早く読むための訓練を、もっと学校教育で取り入れるべきだと思います。
たとえば自動車は人が考え出した発明品であって、もともと自然界に備わっているものではありません。だから、運転するには教習所でスキルを身につける必要があります。本もじつは同じです。活字がたくさん並んでいる、現在の形の本が登場したのは、たかだか100年ちょっと前のこと。この新しい発明に対して対応するためのトレーニング法を、わたしたち人類はきちんと確立していません。
●だから、本の教習所ともいうべきプログラムが必要なのですね。すでに学校などではそうした認識は進んでいるのでしょうか。
佐々木 いや、まだまだ読書教育の必要性は理解されていませんね。現在、NBS日本速読教育連盟では、東京大学や日立製作所の研究所とともに、速読脳開発について文部科学省の委託費研究をおこなっています。速読脳開発を学校教育で行った場合、どの程度の成果が出るかを測り、はっきりしたら、いよいよモデル学校を指定してそこで実験授業するつもりです。