著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2008/10/06
1の力を10倍にするアライアンス仕事術 ‐ 平野敦士カールさん
平野敦士カール(ひらの・あつし・かーる) さん
株式会社ネットストラテジー 代表取締役社長、ハーバードビジネススクール招待講師、沖縄大学大学院非常勤講師、「おサイフケータイ」のクレジット発案者(Mastermind)として世界的に著名であり、「ミスターおサイフケータイ」の異名もある。
米国生まれ。東京大学経済学部卒業。1987年日本興業銀行に入行。1999年NTTドコモに転職。アライアンス推進担当部長として、iモード成長戦略プロジェクトのコアメンバーとして、「iモード」「おサイフケータイ」などの開発・普及事業に着手し、2006年にはクレジットカード会社を巻き込んでのアライアンスを進める。ベンチャー経営陣を経て、2007年9月より、ベンチャー企業支援・M&Aアドバイザリー・戦略立案を支援する株式会社ネットストラテジーを創業。10余社の社外役員・顧問を務める。
ブログ「アライアンス仕事術」
●現在のお仕事に至るまでの経緯を教えください。
平野:大学卒業後、日本興業銀行に入行しました。その後、NTTドコモに転職しまして、おサイフケータイの普及の責任者として、楽天、電通、三井住友カードなど多くの企業との企業提携(アライアンス)やベンチャー投資を行なってきました。
現在はハーバードビジネススクールで弱冠26歳で戦略論の准教授になったハギウ博士と共同で設立した(株)ネットストラテジーの代表取締役社長を務めています。
●日本興業銀行からNTTドコモに転職されたきっかけを教えてください。
平野:私が初めてケータイを持ったのは、いまから14年前のことです。きっかけは、母親がガンで、医師から余命3ヶ月を宣告されてしまい、常に連絡がとれる状態にしておく必要があったからです。
当時はまだケータイは大きく、借りるだけで7万円もしました。でも、非常に便利なもので、これからはケータイというツールが世の中を変えていくのではないかと予感したんです。たまたまその後知り合いからNTTドコモの中途採用の話をきいたのです。そこで、ケータイに関わる仕事を是非してみたいと思い転職しました。
とはいえ、当時のNTTドコモはベンチャー企業です。周りからは大反対を受けましたね。
でも、周りの評価よりも、自分の気持ちに正直にいたいという強い思いから、転職に踏み切りました。
そして、いまはNTTドコモを退職し、独立しています。ときには、不安になることもあります。でも、後悔することはありません。様々な出会い(アライアンス)を通じて自分では予想もしなかった新しい自分に会えることが、本当に毎日楽しいんですよ。
●本書を書かれたきっかけを教えてください。
平野:13年前、亡くなった母が書いた原稿を、父が編集して自費出版しました(「帰国子女の母の軌跡」(近代文芸社))。その本の反響がいまでもあるんですね。そのため、前々から、「自分の命が消えても、後々まで色々な人に勇気を与えることができる書籍というものはすごい。自分も本を出したいなぁ」と思っていました。
その後、知り合いの会社の社長さんから「おサイフケータイができるまでの苦労話を本にしませんか?出版社を紹介しますよ」というお誘いを受けたんです。そして、紹介いただいた編集者と話し合いを重ねるうちに、おサイフケータイというひとつのプロジェクトを通して、誰もが実行できる普遍的なノウハウを書いていきたいと考えるようになり、本書が完成しました。
●本書の反響を教えてください。
平野:アライアンス情報整理術では、情報を得るために、人とランチをとることを勧めています。そのため、「早速、ランチを始めることにしました」というメールを数多くいただきました。
また、会社を辞めようか、悩んでいた方たちからは「この本を読んで、この会社でも、まだまだできる仕事があるということ、尊敬できる上司がいるということに気づきました。だから、もう少し頑張ってみます」というようなメールもいただきましたね。とても嬉しかったです。
●アライアンス仕事術について、教えてください。
平野:自分がやりたいことを周りに伝える。そして、それに賛同してくれる人たちを巻き込んで、その人たちにもメリットを与えることによって実現させていく。これがアライアンス仕事術です。自分自身にやりたいことを実現させるだけの力がないのであれば、力がある人たちに助けてもらえばいいんです。例えば私は火星に行きたいといっても非現実的ですが 私はNASAと組んで、に主語を「私」から「私たち」に変えれば一気に現実味を帯びるわけです。
ただし、アライアンス仕事術の根底にあるのは、人への「感謝」です。これを忘れないでください。
私が、NTTドコモ、楽天、電通、三井住友カード、ローソンなどを巻き込み、おサイフケータイが世の中に生み出すことができたのも、このアライアンス仕事術のおかげなんですよ。
●自分ひとりでできることは限られていますね。でも、すべてを自分でやろうとしないというのは、勇気がいることですよ。
平野:そうですね。でも、ひとりで100億円稼いで、豪邸に住んで、いい車を乗り回すよりも、仲間と共に成功して、喜びを分かち合って人生を楽しむ方が幸福だと思うんです。
また、これからの時代、アライアンスの力を利用していかなくては生き残っていくことができません。21世紀型の勝ち組ビジネスモデルは、楽天、グーグル、アップルに代表されるようなプラットホーム型のビジネスです。このビジネスモデルは、アライアンスできる場を提供して、料金をとるというものです。たとえば、楽天の場合、多くのショップに対して、自由にビジネスできる場を提供することで、ビジネスを展開しています。
これからは、こうした企業と企業のアライアンスだけでなく、個人と個人のアライアンスも必要になってくると思います。
●確かに、そうですね。
平野: ちなみに、こうしたプラットホーム型のビジネスは、常に進化していく必要があるのですがユーザーが何を求めているのかをきちんと把握していないと失敗しています。たとえば、インターネットオークションを手がけるeBayは、ユーザー間で無料通話が可能なSkypeを提供している会社を買収しました。Skypeがあれば、オークションの際、便利だと考えたんですね。でも、ユーザーは、取引先の相手と会話するのは面倒なものなんです。その結果、オークションの取引数が減ってしまったんです。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
平野:周りの目よりも、自分の気持ちを優先させてください。いま、本当にやりたいことがやれているのか、立ち止まって考えてみてください。
また、いまは何もしないことのほうが、リスクが大きいと言われる時代です。サラリーマンだからといって、安心はできません。だって、いつ会社がなくなるか分かりませんから。これからの時代、たったひとり大海に投げ出されても、生きていけるような何かを身につけておく必要があります。そのためには、これだけは日本一、いや世界一だと思えるような何かを身につけてほしいですね。