著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
- バックナンバーをご覧いただけます。
2007/02/20
若者はなぜ3年で辞めるのか?年功序列が奪う日本の未来 ‐ 城繁幸さん
- 今回は『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来(光文社)の著者、城繁幸氏にお話を伺います。本書は、若者が仕事で感じる閉塞感の正体を明らかにした上で、今後、進むべきなのかを示してくれる1冊です。
城繁幸(じょう・しげゆき) さん
1973年山口県生まれ。東大法学部卒業後、富士通入社。以後、人事部門にて、新人事制度導入直後からその運営に携わる。2004年、同社退社後に出版した『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊(光文社ペーパーバックス)』が大ベストセラーとなる。現在、人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見をメディアにて発信し続けている。
●現在の城さんのお仕事を教えてください。
城: 現在は人事コンサルティング「Joe's Labo」で代表を務めています。主な顧客は中小企業の社長です。
●今回、この本をお書きになった経緯を教えて下さい。
城:まず、大卒者の3分の1以上が3年以内に会社を辞めます。その理由について、世間では、若者の我慢が足りないからだと言われています。でも、事実は違います。
たとえば、従来の年功序列では、若者は一生下働きで終わってしまいます。というのも、バブルが弾け、組織は小さくなってしまった。にも関わらず、上がポストを独占していて、空きがないからです。
だからといって、現状の成果主義がいいかというと、そうでもありません。実は、日本の企業が導入している成果主義は、すでに役職のあるものは降格されない、定期昇給で十分昇給した世代は下がらないという、既得権層にとってのみ都合の良い和製成果主義なんです。職務給を基本とした欧米の成果主義とは、まったくの別物なんです。
そんな降格がない成果主義では、人件費を抑える必要が出てきます。その対象となるのは、若者の給料なんです。つまり、これから給料が伸びる若者にしわ寄せがきているんですよ。本書に書いたように、上司を食わせるために若者はクタクタになっているんです。
これでは若者が閉塞感を感じて、辞めていくのも仕方ない。その事実を彼らに近い立場である私が代弁したかった。と同時に、会社に閉塞感を感じている若者へのエールを送りたかったんです。
●成果主義の問題点を浮き彫りにした『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』も大変な売れ行きでしたね。この本も大ベストセラーとなったわけですが、若者たちからの反響はいかがでしたか。
城:通常、ビジネス系の新書の場合、読者は40代がメインとなっています。しかし、この本は20代、30代にもよく読まれているんです。20代、30代から同感だとの意見も聞きますよ。
●しかし、職務給を基本とした欧米の成果主義に変えようとしても、社内に抵抗勢力が相当あるんでしょうね。
城: そもそも現在の人事制度の問題点に気づいていない人が多いんです。
しかし、気づいたとしても、まず何もしないでしょうね。欧米の成果主義にシフトしたら、管理職はポストを失ってしまいますから。誰しも自分の血を流すようなことはしたくありません。
もちろん、そういう企業は生き残ることができません。10、20年後には消えているでしょうね。
一方で、トヨタ自動車やキヤノン、武田薬品といった企業は問題意識を持って取り組んでいます。
既存の管理職ポスト、組織についても、新しい基準で一定の見直しを進めています。
●では、どうすれば、トヨタ自動車、武田薬品工業のような企業に変えていくことができるのでしょうか。
城:一番の近道は、若者が意識を変えて、自分自身を主張することですなんです。肝心の若者が何も言わないのでは、いつまで経っても、何も変わりません。若者が不満の声を上げることによって、企業も変わらざるを得なくなるはずです。
●でも、意識ってなかなか変わらないですよね。日本のいまの日本人って、いい大学にいって、いい会社にいくというのが、当たり前になっていますよね。
城さんご自身は東大卒で、富士通入社。大学も企業も勝ち組じゃないですか。でも、あえてそこから降りているんですよね。会社時代、このままじゃダメだという意識はありましたか。
城:もちろんです。ポストは年々減っていくのに、どうやったらそこのポジションにいけるのか。もしかしたら一生いけないんじゃないか。私に限らず、それに気づくのは、入社して2、3年目ぐらいでしょうか。
しかし、いざ会社を辞めるとなると、母親からは泣いて止められました。母親の世代は、いい大学に入って、大企業に定年まで勤めるのが、最善の道だと信じていますから。
よく「若いうちは我慢しろ」という言葉を聞きますが、それは嘘ですね。若い頃の苦労が報われる人は少ないでしょう。生涯平社員、年収でも団塊世代の6割程度でピークアウトする人間が大半でしょう。
(続く)
●でも、会社を辞めても、いったい、どこを目指せばいいのか、分からない若者も多いんじゃないでしょうか。
城:そうなんですよ。これから就職する若者に、私が会社を信じるなと力説しても、「じゃあ、どこの会社だったら、安泰なんですか」なんて聞いてくる人も多い。人の話を聞いているような、聞いていないような(苦笑)。よくスポーツ選手が最大のライバルは自分だというけれども、それは本当だと思うんですよ。
目標は他人との勝ち負け、つまりどれだけ早くレールの上を走ることができるかではなくて、自分のやりたいこと、理想を追い求めることだと思うんです。
●なるほど。
城:たとえば、大企業でバリバリ働く、仕事に生きるのが理想だという人がいるとします。でも、これが自分の人生ですっていえるような大きな仕事なんて、部長以上にならないと回ってこないでしょう。20年後に絶対に部長になれるんだったらいいですよ。でも、従来の制度ではまず無理でしょう。
●製造業だと、同期入社で二割くらい。残りは下積みで終わってしまうということですね。
城:そうですね。だったら、大企業にこだわる必要はないんです。世の中には、2年目から部長の仕事やらせてくれる会社があるんだから、 そこを目指した方がいいじゃないかと思うんです。
ベンチャー企業って、当然のように職務給をベースにした成果主義を採用しているじゃないですか。実際、私も目の当たりしたんですが、あるIT企業では、優秀な20代の部長が当然のように40代の人間を仕切っていました。
でも、誰しも私の価値観を押しつけるつもりはありません。人それぞれですから。
なかには、仕事はあくまでも生活の糧を選ぶ手段と割り切っている人もいます。彼らは仕事よりも、アフター5の時間を大切にしたいと思っています。彼らは、レールを降りことなく、体を壊さないように、仕事をすればいいと思いますよ。
●実は、私は90年入社で、バブル世代なんですよ。最後の売り手市場の世代なんです。
城:この本にも書きましたが、一般的にはバブル世代は恵まれていると言われていますが、実は一番、貧乏くじを引いた世代なんですよ。彼らは難なく就職できたおかげで、企業が引いたレールを信じて、走ってきた。20代の頃、自らのキャリアをデザインしてきていないんですよ。だから、いまさら、レールを降りろといっても、どうしていいか、分からないんです。かわいそうだと思いますね。
●確かに、周りを見渡しても、楽して企業に入っている分、キャリア設計は考えていませんでしたね。みんな、このままたぶん、いけるんだろうと楽観視していましたし。もちろん、後になってそうではないということに気づくんですが・。
城:その点、氷河期の就職戦線を勝ち抜いて入ってきた世代は強いです。00年が最大の就職氷河期なんですが、その年を境にして、がらりと変わりましたよ。ただ単に、いい大学を卒業しただけではダメで、資格を取得したり、複数の企業でインターシップを経験したりしないと採用されなくなりました。非常にハードルが高いんです。たぶん、いま、私が就職活動をしたら、受からない自信がありますよ(笑)。
●確かに今の大学生はずいぶん勉強していますね。
城:苦労している分、就職氷河期世代は、もともとのレベルも、仕事に対するモチベーションも高いんです。人にもよりますが、会社を信じず、常に自分のキャリアを念頭において仕事をしている人も少なくありません。バブル世代は、そんな後輩からもあおられているんですね。
でも、就職氷河期世代も企業に入ってからのギャップがあります。企業のハードルが上がっても、年功序列という会社の構造そのものまで、変わるわけではありませんから。
●この状況はこれからも続くのでしょうか。
城: 06年は求人倍率が1・8倍になりました。でも、企業はいったん上げたハードルはなかなか下げませんよ。しかし、景気が良くなり、就職率が上がれば、また、いい大学を出て、いい企業に就職するのがベストという価値観が復活するかもしれませんね。
●最後に、この本をどのように読んでもらいたいですか。
城:「この世の中、楽しい仕事なんかあるわけがない。仕事とはつらいものなんだ」という人は非常に多いです。ある意味、正しい部分もあります。しかし、それは真心から出たものなのでしょうか。もしかしたら、若者を騙そうとして出たものかもしれません。本書を読んで、その点を考えてみて欲しいですね。