著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2009/02/19
Google経済学 ‐ 柴山政行さん
柴山政行(しばやま・まさゆき) さん
公認会計士、税理士。税務、コンサルティング、監査の各種業務に従事しながら、実務につながる実践的な会計教育を理想に掲げ、大学や専門学校などで会計学・実務簿記などを教えている。無料メールマガジン「時事問題で楽しくマスター!使える会計知識」は、読者55,000人を突破。これを解説した会員制CDセミナー「経済・会計・時事ニュース通信」は多くの支持を得ている。主な著書に、「一目で見抜く! 財務諸表解読法」「最新減価償却の基本と仕組みがよ?くわかる本」(ともに秀和システム)、「虎の子を増やす決算書の読み方」(中央経済社)などがある。
●公認会計士でいらっしゃる柴山さんが、本書を書かれたきっかけを教えてください。
柴山:私は「時事問題を会計知識で楽しく読み解く」というメールマガジンを発行しています。主に日経新聞からネタを拾うという方法で書いていたのですが、たまたま正月に妻の実家に帰省したとき日経新聞が見当たらなかった(笑)。そこで一般紙のトピックからネタを探そうということでピックアップした記事が2008年1月の久間章生元防衛相が政治献金を預金小切手で受け取ったという事件でした。久間氏自身が話題になっていたというのと「預金小切手」という一般読者には耳慣れないキーワードがあったので読者の反響も高く、出版社の目にとまり本書を書くきっかけとなりました。
●なぜグーグルをテーマに選んだのですか。
柴山:グーグルを取り巻く時事問題を会計知識を使って読み解くと面白いと感じたからです。たとえば、2008年の初めにマイロソフトが米ヤフーに買収を提案しました。この背景にはマイクロソフトがグーグルに驚異を感じていた事情があるといわれています。しかし、マイクロソフトとグーグルの決算書を見ると比較の対象にならないのです。たとえば、2007年の営業収益で比較してみるとグーグルが約2兆円なのに対し、マイクロソフトは6兆円超。なんと3倍の開きがあるのです。数字上はグーグルの3倍以上の事業規模を持つマイクロソフトがなぜグーグルを意識するのか? これを会計という視点から分析したら、いろいろな分析ができそうだと考えました。
●本書で特にここは読んでもらいたいという箇所はありますか。
柴山:本書は財務分析や簿記の知識がない人でも読めるように工夫して書いています。決算書はビジネスパーソンであれば、誰でも読む機会があるわけですから、最低限の決算書の知識さえあれば楽しめる内容になっています。実際、本書を書くにあたって難解な会計関連の書籍は一切参考にしませんでした。敢えて言えばグーグルだけです(笑)。Web上で実際に公開されている決算書を検索して、それをダウンロードして分析する、という誰でもやろうと思えばできる手法で本書を書いています。オススメなのは、グーグルが行ったYouTubeの買収劇からM&Aを読み解くページです(第二章)。ニュースなどで話題にはなりましたが、それがどのくらいすごいのか普通の生活をしているとなかなか実感できない。ところが、会計知識で読み解くとロジックに理解できるから面白いと思います。
●この本のなかで最も言いたかったことを教えてください
柴山:数年前までは、ある企業の決算書を取得するのでも、有価証券報告書を取得するのでも時間と労力が必要でした。しかし、今はパソコンさえあれば、上場企業の決算書や有価証券報告書を取得するのは誰でもできるような時代になりました。
実はこれは何も決算書や有価証券報告書に限ったことではなくて、大学をはじめとした専門研究機関の情報も簡単に取得できるような時代になってきたということなのです。
たとえば、本書では第四章以降でWeb上の公的資料やフリー百科事典のウィキペディアをもとに人口増加問題や食糧問題の分析を行っていますが、これらのテーマについては、さらに踏み込んだことが分析できそうだと考えています。その昔、インターネットに落ちている無料の情報は、無意味なものばかりといわれていましたが、そういうものばかりではないというのが本書の作成を通じて実感したところです。ただ、お金を払ってもいいと思える情報がある一方で、お金を払う価値もない無意味な情報もWeb上に混在しているのは確かで、今後は情報の取捨選択するスキルが今まで以上に問われてくるのではないかと考えています。
●次回作への期待が高まります。
柴山:おかげさまで来年早々、時事問題や身近なテーマから会計を語る本を2冊出版する予定です。世の中の流れは本当にはやいもの。本書の執筆時には、GoogleマップストリートビューやGoogle Chromeといったサービスはありませんでしたからね。今後も1年に1冊、本書の改訂版も出せればいいですね(笑)。
●最後に読者にメッセージをお願いします。
柴山:グーグルによる検索法は「出尽くした感」がありますが、いまだに多くの人が「キーワードを入れて、その結果を閲覧する」というシンプルな利用のみにとどまっているような気がします。「検索結果を二次加工して成果物にする」ところまで達している人はほとんどいません。本書にはそのためのエッセンスが詰まっているので、ぜひ活用してください。