著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2006/08/16
論理的に、わかりやすく書く、ビジネス文書のツボ ‐ 照屋華子さん
- 今回は『ロジカル・ライティング(東洋経済新報社)』の著者、照屋華子氏にお話を伺います。ビジネスコミュニケーションの場では、ビジネス文書は必要不可欠。しかし、誰にでもわかってもらえるビジネス文書を作成するのは難しいものです。本書では、コミュニケーション・スペシャリストとして活躍する著者が、わかりやすく論理的にビジネス文書を作成するための技法を教えてくれます。
照屋華子(てるや・はなこ) さん
コミュニケーション・スペシャリスト。東京大学文学部社会学科を卒業した後、株式会社伊勢丹に入社。社内広報に携わる。その後、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、独立。現在は、顧客企業向けに、ロジカル・シンキングをテーマにした研修プログラム・セミナーを行なっている。また、マッキンゼー社の契約エディターも務める。
●まず、照屋さんのこれまでの経歴とお仕事から教えてください。
照屋:現在はコミュニケーション・スペシャリストとして、顧客企業を向けにロジカル・シンキングを用いたエディティング・サービス、研修プログラム・セミナーを行なっています。
それまでは株式会社伊勢丹で社内広報、マッキンゼー・アンド・カンパニーでエディティングサービスに携わっていました。
●ベストセラー『ロジカル・シンキング』の第2弾として、こちらも好調な売れ行きですね。
照屋:ありがとうございます。本書は『ロジカル・シンキング』の続編として、より実践的な
内容になっています。もともと続編まで含めて1冊分の内容だったのですが、ページ数の関係でやむなく半分を出版しました。今回、続編を出したことで、ようやく書きたかったことが完結できたという思いです。
●本書をお書きになったきっかけは?
照屋:「伝えたいことはたくさんある。でも、テーマがはっきりしていない」 そんな文書を作成されるビジネスパーソンは、非常に多いんです。でも、よいビジネス文書を作成するためのプロセスを網羅した手引書は、これまで存在していませんでした。そのため、多くのビジネスパーソンが、ビジネス文書の作成の仕方が分からずにいたように思います。私自身も、マッキンゼー・アンド・カンパニー時代から、「ビジネス文書作成のための手引書があればいいのに......」という思いを抱えていました。そこで、ビジネスパーソンに向けて、論理的に分かりやすく書くためにはどうすればいいのか、まとめてみたいと考えました。
また、本書では、ビジネス文書作成のプロセスばかりでなく、話すことも含め、ビジネス・コミュニケーション全体に共通するアプローチや事例なども紹介しています。『ロジカル・シンキング』だけでなく、ぜひ本書も読んでいただきたいですね。
●ご自身のスキルが活かされているんですね。
照屋:はい、マッキンゼー・アンド・カンパニー時代からこれまでの仕事のスキルを活かして、執筆しました。ただし、書くという手法を書くことで説明するというのは、話して説明するよりも大変でした。本書の執筆は、私にとっても、チャレンジでした。
●小論文の書き方の本はすでに多数出版されていますが、小論文とビジネス文書の書き方とでは違うのでしょうか?
照屋:小論文の場合、書き手自身の主張が説得力をもって展開されていれば、それで問題ありません。でも、ビジネス文書の場合は、それだけでは足りないんです。
ビジネス文書の目的は、自分自身のロジックを完結させることではなくて、ビジネスを前に進めるということです。ビジネスの相手を動かすことができなければ、よいビジネス文書であるとは言えないんです。ここが小論文とビジネス文書の大きな違いです。しかし、いざ書くとなるとこの点を忘れてしまうビジネスパーソンは多いですね。
また、こうしたビジネス文書の目的から考えると、もし書くことよりも話すことの方がビジネスを前に進めやすいというのであれば、わざわざビジネス文書を作成する必要はないんです。
●書くことと話すことの大きな違いは何でしょうか?
照屋:話す場合は、内容に分からない点があれば、その都度、聞き手が尋ねてくれます。それによって、自分自身の説明に何が足りなかったかに気づきます。そして、その場で聞き手に対して、追加で説明することができます。しかし、書く場合は一方通行です。ビジネス文書に分からない点があったとしても、読み手は質問することができません。読み手にとっては、ビジネス文書に記されていることがすべてとなってしまうんです。
また、あいまいなビジネス文書であればあるほど、解読のために読み手は多くの時間を割かなければなりません。さらに、あまりにも分かりにくいビジネス文書の場合は、相手に読んでもらうことすらできず、その結果、ビジネスがとまってしまうこともあります。
(続く)
●本書を書く上で、工夫された点を教えてください。
照屋:ビジネスパーソンが陥りやすい分かりにくい組み立てや表現には、共通性があります。そこで、陥りやすい分かりにくい組み立てや表現の具体例と改善例を対比して挙げていくようにしました。本書で紹介したありがちな例、改善例を見比べて、自分自身のビジネス文書はどこが足りないのか、そして、どこを強化していいけばいいのかに気づいて下さい。
また、私はビジネスパーソンの皆さんに、論理的な組み立てのパターンを理解していただくには、文章よりも図解の方が適していると考えました。これは、多くの人を教えてきた経験から導き出した結果でもあります。そこで、本書では、図解を多用するようにしました。図解については、ありがたいことに、マッキンゼー・アンド・カンパニーのかつての同僚であった図解のスペシャリストの方からもアドバイスしてもらうことができました。
●本書を有効に使うためのポイントを教えてください。
照屋:この本では、「組み立ての準備」、「導入部の組み立て」、「本論の組み立て」、「組み立ての視覚化」、「日本語表現」と、ビジネス文書を作成する全てのステップを紹介しています。いままで自分が作成してきたビジネス文書を振り返って、どのステップが欠けているのかを見つけて下さい。そして、そのステップを重点的に訓練するようにして下さい。そうするだけで格段にビジネス文書がよくなります。ビジネス文書上達への近道でしょう。
●実際、どのステップが抜け落ちている人が多いのでしょうか?
照屋:紙を埋めることばかりに頭がいってしまって、「組み立ての準備」を行なっていないビジネスパーソンが圧倒的に多いですね。繰り返しになりますが、ビジネス文書の目的は相手を動かし、仕事を前に進めることです。それができなければ、作成する意味がありません。まず自分がビジネス文書を作成することで、相手にどうしてもらいたいのかを考えてください。書き始めるのはそれからです。「何について、何のために書くのか」という点をあいまいなまま書くと、分かりにくい文書になってしまいます。
●ロジカル・ライティングに必要なセンスというものはありますか?
照屋:ロジカル・ライティティングには、特別なセンスや才能は必要ありません。コツコツ諦めずにやることが大切なんです。たとえるならば、筋力トレーニングと似ています。筋力をつけるには、適切な負荷をかけて、コツコツとトレーニングを行なう必要があります。
それと同じように、ロジカル・ライティングの手法を身につけるには、頭のなかに汗をかくぐらい、集中力をもって、書くという作業に臨むことが大切です。もちろん、時には休むことも必要です。筋トレも、筋肉をつけるには、筋肉を休めることが必要なのと同じです。
●ところで、照屋さんは、もともとロジカルなタイプのでしょうか?
照屋:いいえ、違います。もともと自分ではロジカル・シンキングに苦手意識がありました。でも、苦手だからこそ、逆になんとかしなくてはいけない、方法論をもたねばと思って関心をもったし、ロジカル・シンキングを身につけるトレーニングをしたんですね。だから、ロジカル・シンキングが苦手なビジネスパーソンの皆さんは、逆にひとつのチャンスであると捉えていただきたいですね。
●読者にとっては、大変、勇気づけられる話ですね。照屋さんは、家でもロジカルな方なんでしょうか?
照屋:家ではロジカルシンキングは忘れたいなと思いますし、家族や友人と一緒のときは忘れていますね(笑)。常にロジカルシンキングでは、疲れてしまいますから。
●最後に、今後の夢や目標などをお聞かせください。
『ロジカル・シンキング』、『ロジカル・ライティング』は共に、ビジネスパーソンを対象としたものです。今度は裾野を広げて、たとえば主婦や学生の方なども含め、より広い読者に向けて論理的にわかりやすく伝えるスキルを紹介してみたいですね。