著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2008/08/21
地頭力を鍛える ‐ 細谷功さん
細谷功(ほそや・いさお) さん
ザカティー・コンサルティング ディレクター 神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(ザカティー・コンサルティングの前身)に入社。製造業を中心として製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理、ERP等のシステム導入、およびM&A後の企業統合等を手がける。共訳書に『市場をリードする「業務優位性」戦略』(ダイヤモンド社)などがある。
●現在のお仕事をお教えください。
細谷:現在、ザカティー・コンサルティングにて、製造業を対象とした業務改革に関するコンサルティングをしています。本書は、コンサルティングの現場で培ってきたスキルの集大成です。
●大変な売れ行きですね。本書の反響を教えてください。
細谷:一般的に地頭力の世界と言うと、属人的な「アート」の世界に属していると捉えられています。そのため、これまでは、言葉で地頭力を説明することは難しいと思われていました。本書では、そんな地頭力の世界に「サイエンス」を持ち込み、わかりやすく説明するようにしています。おかげさまで、その狙い通り、20代から40代のビジネスパーソンからは、「これまで漠然と捉えていた考える能力について、非常によく整理されていて、分かりやすい」という感想をいただいています。
●では、本書のタイトルにもなっている地頭力について、詳しく教えてください。
細谷:地頭力とは物事を考える基礎になる力のことです。「結論から」考える仮説思考力、「全体から」考えるフレームワーク思考力、「単純に」考える抽象化思考力といった3つの思考能力から成り立っています。そして、これらの思考力のベースとなっているのが、知的好奇心、論理思考力、直観力の3つの力です。
また、地頭力の「結論から」「全体から」「単純に」考える思考回路は、経営者にとって必要なものです。実際、優れた経営者の多くは、地頭力が高い人が多いんですよ。
●どうすれば、地頭力をつけることができるんでしょうか。
細谷:地頭力は生まれつきのものだと思われていますが、トレーニングツールによって鍛えることができると思います。そのトレーニングツールとして、最適なのが本書で紹介している「フェルミ推定」です。
●フェルミ推定について、教えてください。
細谷:フェルミ推定とは、つかみどころのない物理量を短時間で概算することを意味します。
たとえば、「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」、「日本全国に電柱は何本あるか?」、「世界中で1日に食べられるピザは何枚か?」、「日本全国にゴルフボールはいくつあるのか?」、「東京都内に駐車禁止の道路標識はいくつあるか?」、「日本全国に郵便ポストは何本あるか?」といった例題が挙げられます。
実はこれらの問題には、答えがありません。仮に答えがあったとしても、出題者でさえその正確な「答え」を知らない場合もあります。そのため、フェルミ推定では答えがあっているかどうかではなく、その答えにいきつくまでのプロセスが重要になってきます。
本書では、フェルミ推定の解決例を解説しています。答えにいきつくプロセスを見てください。また、地頭力をつけるために、フェルミ推定を自作して、解くようにしてください。訓練すれば、3分で答えが出せるようになります。
●実は細谷さんに教えていただくまで、フェルミ推定のことを知りませんでした。
細谷:フェルミ推定は一般的にはなじみのない言葉ですが、コンサルティング会社の面接で出される問題として一部では知られていました。コンサルティング会社は、フェルミ推定を出すことによって、その人物の問題解決能力をはかっています。でも、就職・転職希望者の中には、フェルミ推定を出されると、とんでも問題またはプレッシャー問題と誤解してしまう人もいるようです。
日本では、まだまだ表面的な部分でしか語られておらず、本当の意味での活用はされていない状態だと思いますね。
●本書が非常に売れている背景には、いま、企業が地頭力の高い人を求めているからなのでしょうか。
細谷:頭のよさには3種類あります。まず、知識・記憶力に優れている物知りの人。次に、対人感性力がある機転が利く人。最後に、考える力がある=地頭が高い人です。
一昔前は、企業は知識・記憶力に優れている人を採っていました。しかし、インターネット時代、検索エンジンを使えば、素人でも専門家並みの情報を得ることができるようになりました。また、世の中のスピードが加速するにつれ、情報の陳腐化も早くなってきています。そのため、昔と比べると、単に知識・記憶力に優れている人には、以前ほど価値がなくなってきているのではないでしょうか。
一方、地頭力がある人は違います。まず、地頭力には汎用性があります。また、時間が経つにつれ、その能力が陳腐化されることもほとんどありません。地頭力が高い人は、インターネット上にあふれている情報の中から必要なものだけ選ぶことができます。そのうえで、プラスαの価値をつけることが可能です。だから、いま、企業は知識・記憶力に優れている人よりも、地頭力が高い人を求めているんですよ。
●これからはビジネスばかりでなく、学校教育の場でも、地頭力が重要視されてくるのではないでしょうか。
細谷:そう思います。そもそも小・中・高校が詰め込み教育主体である理由は、はっきりしているんです。それは、大学の入試がいかに多くの知識を持っているかを問うものだからです。つまり、いい大学に入るためには、とにかく知識量を増やさないといけません。
さらに、なぜ大学の入試が知識・記憶力を重視しているかと言うと、企業が知識・記憶力に優れた人を積極的に採っていたからではないでしょうか。しかし、先ほど述べたように、いま、企業のニーズが変わってきています。そうなると、学校教育の場も変わらざるを得なくなっていくと思いますよ。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
細谷:インターネットで入手した情報を必ず自分なりに考えて付加価値をつける癖をつけること、そしてそのために本書で紹介したような基本的な考え方を参考にしていただければと思います。これは職種や業界を問わず全てのビジネスパーソンに役に立つものだと思っています。