著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2008/10/23
フォーカス・リーディング ‐ 寺田昌嗣さん
寺田昌嗣(てらだ まさつぐ) さん
http://www.office-srr.com/
SRR速読教室代表。1970年、福岡生まれ。名古屋大学法学部卒業。元福岡県立高校教諭。高校時代に「1冊1分」をうたう夢のような速読術にはまり、複数の講座に挫折しながらも7年かけて独自のメソッドを開発し修得に至る。2001年に独立した後は、実践的ビジネススキルとして速読術を完成させ、その指導に当たる。人気ベンチャー企業ワイキューブから大手電力会社まで幅広く社員研修を実施。速読術講座の受講者には石原明氏ほか、多数のビジネス書ベストセラー作家も。
●現在のお仕事をお教えください。
寺田:もともとは県立高校の教師で、当時からネット上で無料の速読術講座を開いていました。そして、7年前に独立。いまは個人から社内研修まで、幅広い方たちに速読術を指導しています。
●いつから速読術を始められたのでしょうか。
寺田:私が速読術に興味を持ったのは高校生のときでした。それ以来、7年もの間、速読術の修得に励みました。私が皆さんに指導している速読術はこれまでの経験をベースにしたもので、誰にでも修得できるものとなっています。
●本書が売れている背景をお教えください。
寺田:今から10年弱前に、一度、速読ブームがあったんです。でも、速読教室の「脳には無限の可能性がある」などという謳い文句には、どこか胡散臭いイメージがつきまとっていました。
ところが、3年前、勉強本ブームが始まってから、速読のイメージががらりと変わってきたんです。それは、勉強本でベストセラーを出している勝間和代氏、本田直之氏といった勉強本のカリスマたちが、速読術の実践者として、その効果について、語り始めたからです。彼らはビジネスパーソンに強い影響力を持っています。そのため、再び、速読術に注目が集まるようになりました。しかも、勉強本のカリスマがお勧めしているわけですから、速読につきまとう胡散臭いイメージは一掃されました。そういった時代の流れに、私が提唱する速読術がうまくはまったのかなと思っています。
●出版後の反響をお教えください。
寺田:もともと3ヶ月前には満席・キャンセル待ちだったのですが、本が出てからというもの、募集を開始してから満席になるまでの時間がさらに短くなりました。ただし、ブームのせいか、軽いノリで学びに来る人が多いのも事実なんです。自主トレーニングをしてこなかったり、私のサポートをまったく利用しなかったり、そんな受講生たちが増えています。でも、それは私の意図とは反するんですよ。失礼かと思いますが、学ぶ限りは、ある程度、覚悟を決めて、積極的な姿勢で講座を受けてほしいですね。
●本書を書かれたきっかけをお教えください。
寺田:速読を学ぶ人の中には、「脳には無限の可能性がある」という夢を持っている人が多い。私はこうした状況に対して、ずっとイライラしていました。夢だけでは、速読術は修得できませんから。
また、たとえ修得できたとしても、仕事に活かせていない人が多い。私は速読に踊らされている人たちに対して、具体的なノウハウを伝えたかったんです。
また、自分なりに十数年も指導している中、私自身が速読に関する夢をあおってしまっている部分もありました。そうしたことへの反省と罪ほろばしでもあります。
本書では、夢みたいなことはまったく書かれていません。すべて具体性のあるノウハウばかりです。これまで速読に挫折した人にも試してほしいですね。
ノウハウについては、本書だけでなく、ネット上にも公開しています。閲覧は全て無料です。私が直接指導する場合は、対価をいただきますが、独学でもできる人の場合は無料で支援する形をとっているんです。それは私が編み出したノウハウと言っても、誰かのノウハウの改良であったり、受講者の言葉で気づかされたものを取り入れたり、そんなふうに皆さんのおかげで作られたものだと思っているからです。
●世の中に速読を広めたいという気持ちが強いのでしょうか。
寺田:はい、その通りです。でも、私は速読術そのものではなく、速読を通して、読書の素晴らしさを広めたいと思っています。読書は気軽だという人がいる一方、読むのが大変だと思う人もいます。でも、速読を身につけることによって、本が身近に感じられると思います。
そして、私がそうした気持ちになったのも、もと教師であるということが関係していると思います。私が教師になったのは、今の世の中を変えたかったからなんですよ。だから、英語でも国語でもなく、社会の教師を選びました。
私は教師という仕事は、こちらが一方的に価値観を教えるではなく、相手が学ぼうとするのを支援する仕事だと捉えています。そして、いまのこの仕事も、人の成長を支援する仕事だと思っています。
実は、今、予備校の講師の世界に足を踏み込みたいという気持ちが強くなっています。これからの日本を背負っていく若い人たちと関われるのが魅力的ですからね。
●若い人たちにも、速読術を勧めたいと思っているのでしょうか。
寺田:私が主宰している速読術講座には高校生も訪れます。でも、読書力がないうちに、速読をしても何の意味もありません。
私が高校の教師をやっていた頃、生徒に対して、「卒業までに100冊の本を読みなさい」とアドバイスしていました。それは思考力というものは、読書力と共に養われていくものだからです。速読術を学ぶのは、まずはじっくりと本を読んで、読書力、そして思考力を身につけてからにしてほしいですね。
●読書力と言えば、スポーツに例えて説明しているのが、印象に残りました。
寺田:スポーツは地道に練習しないと、上手になりません。また、いくら練習しても、その方法が間違っていては意味がありません。これは誰もが分かっていることです。しかし、読書力に関しては、なぜかお手軽な方法があるのではないかと思っている人が多いです。しかも、間違った方法をとっている。読書力もスポーツと同じで、地道に努力しないと身につきません。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
寺田:私は速読という技術を通して、読書をもっと身近なものにするお手伝いをしたいと思っています。速読術に対して、過剰な夢を抱いたり、逆に胡散臭いと構えたりしないでください。また、ただ単に速読術を修得するのではなく、仕事に役立てるようにしてください。そして、成長できる読書につなげていってください。