著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2008/12/16
じゃんけんはパーを出せ! ‐ 若菜力人さん
若菜力人(わかな・りきと) さん
東京大学工学部卒業、マサチューセッツ工科大学でMBAを取得。某大手日本企業の米国事務所長を6年間務めた後、買収した北米子会社の経営再建を担当。
現在は帰国して海外事業戦略部門で活躍中。
経済学、経営学、社会学、法学、数学、生物学、情報科学、政治学などの多くの分野に「ゲーム理論」が使われていることに驚き興味を持つ。さらに、「人間関係」「営業」「交渉」「戦略」「戦争」にまで適応できることを知り「ゲーム理論」の奥の深さに気づく。
実生活でも、「ゲーム理論」に基づく戦略思考を経営や仕事に応用し活用、高い成果を出している。
海外への出張も多く、外国人との会議・交渉にも「ゲーム理論」に基づく戦略思考を使い堂々と渡り合っている。今回は、「ゲーム理論」の素晴らしさを多くのビジネスマンに伝えるために執筆。幅広い層のビジネスマンが戦略思考を利用し、成果を出し日本経済が活性化することを夢見ている。
●現在のお仕事をお教えください。
若菜:現在、某大手日本企業の海外事業戦略部門で働いています。兼業作家で、本書は、仕事が終わってからの2、3時間と休日に執筆しました。
●どういった方たちに読んでもらいたいでしょうか?
若菜:普段、あまりビジネス書を読まない方たちにも手にとってもらいたいと思っています。そのため、タイトルも『じゃんけんはパーを出せ!』というキャッチーなものにしました。
また、一般的にゲーム理論の本と言うと、厳密な理論や数式で説明されているため、とっつきにくいというイメージがあります。そこで、難しいエピソードだけでなく、「合コンでは、会計男とイケメンはどちらが得をするのか?」、「なぜ、オタク男は子孫を残せるのか?」といった身近なエピソードを取り混ぜて、話に入りやすくしました。本書はゲーム理論の入門書です。この本をきっかけに、ゲーム理論に興味を持ってもらえればと思っています。
●本書の反響をお教えください。
若菜:おかげさまで、編集部には、難しいゲーム理論が分かりやすく書かれているとの感想が届いているそうです。
●これらのエピソードはどこから思いついたのでしょうか?
若菜:実は、これらのエピソードは、友達との飲み会で、普段、私が話していることなんですよ。本書では、友達から評判が良かったエピソードだけを紹介しています。この他にも、まだまだおもしろいエピソードはあるんですよ。
●『じゃんけんはパーを出せ!』の意味を教えてください。
若菜:桜美林大学の芳沢光雄教授が「じゃんけんをする時、最初に何を出すか」を調べたところ、グーを出す確率が約35%でもっとも多かったそうです。ということは、じゃんけんの時、最初にパーを出せば、勝つ確率が上がるということになります。このように、じゃんけんといった一見、運を天に任せたかのように見える勝負も、実は勝つための極意といったものが存在するんですよ。
ところが、『じゃんけんはパーを出せ!』と世の中に知らしめた瞬間に、その戦略は使えなくなってしまいます。それは、その極意を知った人が「だったら、パーを出せばいい」と考えるからです。
もしじゃんけんの時に相手がパーを出したとしたら、相手はじゃんけんの極意を知っているかもしれないと考えてください。そして、次に自分が出す手を練ってみる。このように相手の出方を見て、臨機応変に自分の戦略を変えていく。これが、ゲーム理論の考え方なんです。
自分のことだけ考えていても、うまくいかないものです。自分の動きに対して、相手はどう考えているのかを読む。そして、自分の動きを考えるといった方法は、じゃんけんだけでなく、ビジネスにも、恋愛にも、あてはまることなんです。
もちろん、この本に書かれているゲーム理論通りに実践したからと言って、すべてがうまくいくとは限りません。しかし、たとえ勝負に負けたとしても、どうしてうまくいかなかったが分かります。
●この本で最も言いたかったことをお教えください。
若菜:欧米人はゲームに勝つためにはどうすればいいかを徹底的に考えます。そして、もしゲームのルールが自分たちに不利なものであると見なせば、ルールそのものを変えてしまおうとするんです。この発想は欧米人にとっては、特別なことではないんです。
その典型的な例がオリンピックのジャンプ競技が、身長の高い欧米選手に有利なルールに変更されたことです。ルール変更前までは日本のジャンプ陣はメダルを独占していました。ところが、ルール変更後は日本のジャンプ陣の結果はふるいませんでした。これは、変更後のルールが、日本のジャンプ陣にとって、不利であったためです。
日本人は、自分にとって不利なルールであったとしても、ルールである以上、絶対に守らないといけないと考えてしまいます。ましてや、ルールそのものを変えてしまうなんて、思いもつきません。しかし、これでは世界を相手にして、勝つことはできません。日本人も勝つためにはルールそのものを変えてしまうという発想を持ってほしいですね。
●普段も、ゲーム理論的思考で過ごされているんでしょうか?
若菜:はい、そうです。例えば、読書ひとつとってみても、私は戦略的に動いています。例えば、私は持ち運びのしやすい文庫本は電車の中で読む用、かさばる単行本は家で読む用といった具合に分けています。さらに、電車の中でも、座ることができれば本を読みますが、立っている時はi-podを聞くようにしています。
また、無駄な時間が嫌いなので、常に先手、先手で動くようにしています。例えば、出張に行く時も、万が一、時間が空いた時の場合に備えて、いくつか現地でできることを用意しておきます。
家族で、どこかに出かける時も同様です。事前に徹底的に調査して、効率良く回れるようにします。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
若菜:行動を起こす前に少し立ち止まって、その選択が本当にベストであるのか、よく考えてみてください。そうすれば、人生はいまよりも開けるんじゃないでしょうか。