著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2009/03/10
「打たれ強い心」のつくり方 ‐ 田中ウルヴェ京さん
- ●現在のお仕事と本書を書かれたきっかけについて教えてください。田中:現在、私はメンタルトレーナーとして、プロスポーツ選手やオリンピック選手からビジネスパーソンに至るまでメンタルトレーニングやキャリアプランニングを指導しています。今まで出版したさまざまな著作のなかで、私は「ストレス(ピンチ)によってマイナスになってしまった自分をゼロに戻す」という「ストレス対処スキル=ストレスコーピング」の技術を紹介...
田中ウルヴェ京(たなか・うるヴぇ・みやこ) さん
日本大学在学中の1988年にソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダル獲得。1991年より渡米、米国カリフォルニア州セントメリーズ大学大学院健康・体育・リクリエーション学部修士課程修了。主にスポーツマネジメント、コーチ学、スポーツ心理学を学んだ後、アーゴジー大学院で認知療法を、サンディエゴ大学院でスポーツカウンセリングを学ぶ。現在日本大学医学部講師、日本オリンピック委員会(JOC)アスリート委員、NPO法人ジュース理事、国際水泳連盟(FINA)アスリート委員、国際応用スポーツ心理学会(AAASP)会員、日本スポーツ心理学会員。自ら主催するカウンセリングオフィス「MJコンテス(東京・港区)」にて、個々の能力発揮を目的としたメンタル・スキル・カウンセリングを行っている
●現在のお仕事と本書を書かれたきっかけについて教えてください。
田中:現在、私はメンタルトレーナーとして、プロスポーツ選手やオリンピック選手からビジネスパーソンに至るまでメンタルトレーニングやキャリアプランニングを指導しています。今まで出版したさまざまな著作のなかで、私は「ストレス(ピンチ)によってマイナスになってしまった自分をゼロに戻す」という「ストレス対処スキル=ストレスコーピング」の技術を紹介してきました。この本では、さらに一歩進めて、逆U字の原理を活用して、ピンチをチャンスに変える技術を紹介しています。
●逆U字の原理とは何ですか?
田中:仕事の生産性や作業効率を高めるためには、ストレスがまったくない状態でもダメだし、逆にあり過ぎてもダメなのです。そこで、ストレスがまったくない状態では、自分に適度な刺激を与える必要がありますし、逆にストレスがあり過ぎる状態では、リラックスをする必要があります。ところが、不意にピンチに遭遇したときに、「ああ、どうしよう」とうろたえているだけでは、自分のストレス状態はどの状況にあるのかという判断を下すことができません。打たれ弱いと感じる人はこのポイントでつまづいているわけです。そこで、本書にある逆U字の原理を覚えれば、自分のストレスと生産性の関係を頭の中でビジュアル化することができるのです。ビジュアル化によって自分自身が抱えているストレス認識することができれば、意識的にコントロールすることが徐々にできるようになり、ピンチをチャンスに変える体質になってくるのです。大リーグのシアトル・マリナーズのイチロー選手や北京オリンピックの金メダリストである北島康介選手など超一流のアスリートは、皆、自分がどのようなストレス状態にあるのかということを認識しているからこそ、ピンチに強く、打たれ強いのです。
●ストレスを認識し、それをコーピング(対処)するだけで打たれ強い人になれますか?
田中:まずは、ストレスを認識して、それをコーピング(対処)するというところからスタートするということが大切だと思います。というのは、ビジネスパーソンの多くは、本当に真面目な方が多くて、ストレスを認識することに対して敗北感を感じる方もいるからです。そして本当の意味でピンチをチャンスに変えられるようになるためにも、自分のストレスを認識するだけでなく、最終的には、自分軸を確立する必要があると思います。自分軸とは、その人の信念や行動規範のことで、周りの環境などによって変化することがないものです。ひと言でいえば、「自分らしさ」のことです。自分が何のために生きているのか、どんな気持ちを味わいたいから生きているのかがわかれば、ピンチに遭遇してもそれをエネルギーに変えて、乗り越えていくことができます。しかし、そのことがわからず、自分軸が確立されていなければ、さまざまなピンチに遭遇したり、環境が変わったときに、それを乗り越えていくエネルギーを奪われていくだけです。特に今は、変化の激しい時代だからこそ、「自分らしさ」「自分でいること」を大切にする必要があると思います。その方法を本書では紹介しています。
●今後はどのような書籍を出される予定なのですか?
田中:上からも下からも板挟みに遭って苦しんでいる中間管理職の方向けにコーピングとコーチングの本を出したいと考えています。私のアメリカの最初の大学院の修士論文はリーダーシップとコーチング哲学でした。その経験を活かして、最悪な上司の下でのコーピング技術とコーピングの必要な部下にコーピングをどうやって教えるかというコーチング技術の本を書こうと思っています。私はよく、「上司はコーチング、部下はコーピングを学んでください」と企業研修で話すことがありますが、これは、上司にどんなに素晴らしいコーチング能力があっても、部下にコーピング能力がなければ、上司の言っていることが100%伝わらないと考えるからです。コーピングとコーチングの違いを紹介しつつ、その的確な活用の仕方を紹介したいと思っています。また、お母さん向けのコーピングの本や小学校受験や中学校受験を控えたご両親向けのコーピングの本などの出版も考えています。
●最後に読者の方にメッセージをお願いします
田中:アメリカで心理学を勉強していたときに、どんな先生にも共通する考え方がありました。それは、自分が生まれるときには自分の選択権はなく、自分が死ぬときも選択権がない。自由に自分が選択できるのは生まれてから死ぬまでの間ということです。人間には、選択する自由が与えられています。「打たれ強く生きる」というものでもいいし、「打たれ弱く生きる」という選択肢でもいい。「限界に挑戦する」という選択肢でもいいし、「限界なんか挑戦しない」というのでもいい。だから、日本のビジネスパーソンには、その自由な選択権を思いきり行使していただいて、頑張らないで自分らしく生きましょうとメッセージを送りたいと思います。