著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2009/03/26
「ここ一番」に強くなれ! ‐ 三田紀房さん
三田紀房(みたのりふさ) さん
1958年、岩手県生まれ。漫画家。明治大学政治経済学部卒業後、大手百貨店勤務などを経て、30歳のとき講談社ちばてつや賞一般部門入選で漫画家デビュー。高校野球を描いた『クロカン』(日本文芸社)や、『甲子園へ行こう!』(講談社)で人気作家に。2003年に東大合格請負漫画『ドラゴン桜』を「モーニング」(講談社)に連載開始。大きな話題を集め、第29回講談社漫画賞受賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。
著書に『個性を捨てろ!型にはまれ!』『汗をかかずにトップを奪え!』『成功の五角形で勝利をつかめ!』(以上、大和書房)などがある。
●本書は、どういう人に向けて書かれたのでしょうか。
三田:読者対象は、20代半ばから30代半ばまでのビジネスマンです。この年代は、どのように仕事に取り組めば良いのか、常に模索しています。そんな彼らに、何かお手伝いすることができれば・・・という思いから、執筆しました。本書には、私が普段から考えていることが詰まっています。
●執筆にあたって、工夫した点があれば、教えてください。
三田:多くの人の目を引きやすいように、冒頭部分を漫画にしました。また、文章自体も通勤中でも、サクサクと読めるようにしています。
●本書を有効活用するためのアドバイスをください。
三田:本書は自己肯定本です。そもそも失敗の原因は緊張してしまい、普段の自分を出せないことにあります。なぜ、緊張するかと言うと、自分自身に自信が持てないからなんです。
実は、仕事というものは、やればできることばかりです。特別なノウハウなんて必要ありません。当たり前のことを普通にやれば、それでいいんです。なのに、このままではいけないと自己否定し、自分に自信をなくしてしまっている。「今のままでいいんだ」と自分自身を肯定してあげることが大切ですね。
ビジネスマンに限らず、就職活動中の学生も、自分に自信を持てない人が多い。なぜかというと、このご時世、就職活動をしても、なかなか内定をもらえないからです。内定をもらえないと、社会からダメだとレッテルを貼られたという気持ちになってしまいます。そのため、自分はダメな人間なんだと自己否定してしまいます。でも、就職試験に落ちたとしても、実は成長できているんですよ。就職試験に10回落ちれば、人間としては相当たくましくなっているはずですよ。
今の時代、ビジネスマンも学生も、自分の能力というものを過大評価するぐらいでちょうどいいのかもしれません。
●自己肯定を勧める本書は、一般的なビジネス書とはずいぶん違いますね。
三田:そうです。今のビジネス書は、自己否定が主流。例えば、効率的な仕事の仕方を教えるビジネス書で言えば、「今のあなたの仕事のやり方は非効率です」と否定して、「だから、○○できるように改善しなさい」と提案するといった具合です。自己を否定した上で、それを改善していくなんて、相当なエネルギーが必要になります。仕事をやりながら、実行するなんて無理ですよ。
また、自己否定のビジネス書が主流だからこそ、私はあえて自己肯定を提案するようにしたんですよ。
●それはなぜですか?
三田:本書でも、その理由を述べていますが、「世の中の逆に成功の鍵がある」からです。時代が右に流れている時は、右方向ではなく、その逆の左方向にこそ、ビジネスチャンスがあるものなんです。それは、ずっと右方向に進むことはなく、必ずどこかの地点で、その逆の方向に揺り戻しがくるはずだからです。私は「今、世の中にないものを! 他の人がやらない分野に手をつけよう!」といつも考えています。
●大ヒット作『ドラゴン桜』も今までにないものでしたね。
三田:『ドラゴン桜』の連載がスタートしたのは、ゆとり教育の時代でした。当時、多くの人たちが、「本当にゆとり教育のままでいいのか?」と疑問を持っていました。だからと言って、どうすればいいのか、分からずにいました。そんな時に、私は『ドラゴン桜』を通して、「ゆとり教育なんてふざけるな。とりあえず、東大へ行け」という全く逆方向のメッセージを打ち出したんですよ。その結果、『ドラゴン桜』に多くの人たちを吸引することができました。
また、『ドラゴン桜』の主なターゲットである高校生は、常に「本当のことを教えてほしい」と思っています。「東大に行くことが成功につながる」という本音を出したことで、彼らの心をひきつけることができたのだと思います。
●ビジネス漫画も出されていますが、漫画とビジネス書では、書く際、主にどのような点が違うのでしょうか。
三田:文字ばかりの漫画では、読者は読む気をなくしてしまいます。だから、漫画は1冊当たりに詰め込める情報量が少ないんですよ。だから、その分、本当に必要な情報は何かを突き詰めて考え、凝縮するようにしています。
逆に、文章は多くの文章量を詰め込むことができます。例えば、『ドラゴン桜』も小説にすれば、半分の量で済むと思いますよ。
●普段から心がけていることを教えてください。
三田:私は、いつも世の中の一般論の逆は何だろうか? と考えるようにしています。そのときは、傍観者ではなく、当事者としての立場を取っています。というのも、傍観者のままだと、地に足のついていない評論家で終わってしまうからです。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
三田:日本人は依存体質です。ビジネスマンは、自立を目指してほしいですね。会社に属していても、隷属はしないことです。そうすれば、いざというときも、自分の身を守ることができます。