著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー
ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。
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2007/04/17
五感マーケティング ‐ 高橋朗さん
高橋朗(たかはし・あきら) さん
1965年生まれ。有限会社無敵ブランド 代表取締役先生。株式会社マインドシェア 顧問。株式会社富士アドシステム 感性マーケティング室 室長。様々な業界のトップ企業のマーケティング戦略策定に参画。わかりやすい語り口と圧倒的な面白さで評判の、新世代コンサルタント。著書に『黄金のおにぎり』、『銀座ママ麗子の成功の教えシリーズ』など多数。
●現在のお仕事をお教え下さい。
高橋:学生時代は精神病院で心理の職に就いていました。大学を卒業した後はマーケティング会社に入社しまして、それ以来、ずっとマーケティング畑です。最近では、トヨタ自動車のレクサス日本市場導入プロジェクトに加わっていましたね。
●高橋さんはアグレッシブに活動されていますが、どうすれば仕事を楽しむことができるんでしょうか。
高橋:心理学的に言うと、人間の欲求は5種類しかないと言われています。まずはその5種類の欲求のなかで、自分が一番強く求めている欲求を認識して下さい。そして、仕事のなかにその欲求を満たせる要素を見い出すようにするんです。そうすると、仕事にやりがいを感じ、楽しく仕事に向かうことができます。仕事ができる人ほど、それが自然にできると言われているんですよ。
-でも、できない人の方が多いような気がしますね。
高橋:実は、それも心理学的に言うと、説明がつくんです。人間は、自分にとって、好ましいこと嫌なこと、どちらに注意がいくかというと、嫌なことなんですよ。なぜなら、人間には動物としての危機回避の本能が備わっているからです。
●では、どうすればいいんでしょうか。
高橋:意図的に好ましいことを見つけるようにすることです。たとえば、「自営業と違って、サラリーマンは企業の歯車の一部だ」ではなく「自営業と違って、サラリーマンは大勢の仲間がいて最高だ」と、また「明日から社会人。気楽だったころの学生に戻りたい」ではなく「明日から社会人。会社を通して、一度に何百、何千もの人脈が手に入る」と考えればいいんです。
●発想の転換が大切なんですね。ところで、高橋さんはどういった経緯で、執筆業に携わるようになったんですか。
高橋:会社の若い子たちは読書が苦手らしく、いくら私がビジネス本を読むように言っても、読んでくれなかったんです。それで、お勧めのビジネス本をダイジェストにして、読ませようとしたんですね。でも、やっぱり読んでくれなかった。
そこで、どうすれば、ビジネス本を読んでもらえるのか、私なりに考えてみたんです。
そしたら、普通のビジネス書は読み手側の想像力にかなり依存しているものなんだということに気づいたんです。ビジネス本に書かれている理論は、ただ単に読むだけではなくて、いったん自分の文脈に置き換えてみないと、完全には理解することができないんですよね。でも、読書が苦手な人にはそれが難しい。では、どうすればいいかと考えたとき、頭の中に浮かんだのが、物語の力だったんです。
物語には、私たちの心に強く訴えかける力があるんですよ。なぜなら、物語には、私たちの五感を刺激する働きがあるからです。たとえば、物語に描写されたシーンから、匂いや味、暑さなどを感じることがあるでしょう。
それで、ビジネスの話を物語形式で書いてみることにしたんです。そしたら、ようやく会社の若い子たちも読んでくれるようになりました。
実は、このとき書いた物語が、私の初めての著書『黄金のおにぎり』になったんですよ。これが私が執筆に携わるようになった経緯です。
●確かに、物語の方がおもしろくて、頭に入りやすいですね。実は、私が書いた本を読んだ方も肝心のビジネスの部分ではなくて、「藤井さんの苦労話が一番おもしろい」と言われる方が多いんですよ。
高橋:物語の力は、ビジネス書だけでなくて、マーケティングにも活かすことができるんですよ。今の世の中、必需品は全てそろっています。買っても買わなくてもいい人に、商品を買ってもらわないといけないんです。そんななか、いくら商品のスペックを説明しても、買ってもらえないんです。極論を言うと、そんな説明どうでもいいんです。お金もらったって、いらないものはいらないし。商品を必要か必要じゃないかではなくて、欲しくなってもらうしかないんです。では、どうすればいいのか。たとえば、車なら燃費や速さではなく、買えばどういったライフスタイルを手に入れることができるかを説明すればいいんです。つまり、夢を見せて、売るんですね。
じゃあ、どうやって、夢を見せていくか。ウェブ2.0の出現で、一般の人たちも情報を発信するようになったいま、訴求力のない情報では埋もれてしまうんです。生き残るためには、強く訴えかえる力を持つ必要がある。私はそれが物語の力だと思うんです。
(続く)
●企業は現行のマーケティングに対する危機感はないんでしょうか。
高橋:ウェブ2.0を利用している企業もありますよ。ウェブ2.0は、一般の人が参加でき、なおかつ、感性のやり取りができるという特徴があります。そのため、企業は一般の人が書いた商品のコメントをマーケティングに利用することができるわけです。
そんななか、いま、ケータイの投稿小説というメディアに注目が集まっています。ケータイ投稿小説もマーケティングにうまく利用することができます。
●実は、本書を読むまで、ここまでケータイ投稿小説が流行っているとは知りませんでした。
高橋:ケータイ投稿小説は、ウェブ3.0とも言える新しいムーブメントなんですよ。
●でも、正直、読みづらかったですね。
高橋:私たちが読んでもつまらないと思いますよ。たとえば、いまから二十数年前、流行ったラジオの深夜番組の投稿だって、若者には分かっても、大人にはちっとも分からなかったじゃないですか。ケータイ投稿小説も、あれと同じことなんです。
ケータイに小説を投稿している人たちも、昔、ラジオの深夜番組に投稿していた人たちと同じ感覚で書いているんですよ。
●なるほど。でも、昔はラジオの深夜番組に投稿しても、Tシャツやボールペンぐらいしか思えらなかったのに、いまは巨額なお金が動くというのがすごいですよね。
高橋:それだけ若者たちがリアルの世界で感じる疎外感が強くなってきている証拠だと思うんですよ。いつの時代も若者は弱者で、常に自分たちの居場所を探していました。いまの若者たちの居場所はウェブなんですよ。ウェブにいる若者たちのなかには、負のパワーがクリエイティブな方面に転換されて、大金持ちになる者もいます。
私は、若者イコール弱者の負のパワーが強ければ強いほど、動くお金の額も大きくなるものだと思っています。
●でも、いくらケータイ投稿小説が人気で、月間12億ページビューあると言っても、オヤジ世代はほとんどが知らないでしょうね。
高橋:そうなんですよ。よほど感度を高くしておかないと、新しいムーブメントから取り残されてしまうんですよ。たとえば、You Tube(ユーチューブ)も投稿型なので、マーケティングに活用することができるんです。若者たちには人気なんですが、上の世代の方は、You Tubeを知らないんです。たとえ知っている人がいても、実際には見たことはなく、新聞の記事で知っているだけなんです。
●高橋さんは、普段、どのようにアンテナをはっているんですか。
高橋:特にありません。ただ、普通の人と違うと言えば、テレビを見ないことでしょうか。テレビは時間の無駄だと思っています。1時間かけても、ゴミみたいな情報しか手に入らないからです。ウェブなら、1時間で相当な量の情報を手に入れることができますよ。
テレビが自分のリラックスのための道具になっている人は見ればいいんでしょうけど、情報収集のために見ているのであれば、まったく意味はないですね。
それから、本から情報を得ようとするときは、「いつかは自分も本を書いてやる」ぐらいの気持ちで読むといいですよ。人に何かを伝えようと思って読むと、自然と本の読み方も変わってくるからです。また、自分の仕事について本にしてみようと思ったら、仕事に新鮮味が生まれてくると思いますよ。
●最後に、読者にメッセージをお願いします。
高橋:本書は若いビジネスマンや学生を対象に書いています。若者たちのなかには、本を読むのに慣れていない人もいます。そのため、彼らに読んでもらいやすくするために、文章量も少なめにし、物語を入れ込むようにしました。
ウェブ2.0の出現で、マス・マーケティングの時代は終わろうとしています。にも関わらず、多くのマーケターはいまだにマス・マーケティングにこだわっているんですね。
それは社内で決定権を持っている方たちの時代がそうだったからです。彼らは、自分たちの若い頃の成功体験を元にしてジャッジを下す面が多いんです。いまは違うと言っても、分かってくれないんです。もちろん、柔軟な考えの方もいますが、ごく少数ですよ。
この本を読んで、若い世代の人たちが五感マーケティングを実践してくれるようになってほしいですね。